もっと光を!

7月下旬から現在までの関東甲信越地方の日照時間は、平年の半分にも満たないようです。7月23日から8月9日の間の日照時間は、東京で平年の46%、宇都宮に至っては25%となっています。

農作物への影響は 関東で日照不足続く @tenkijp

農作物被害が懸念されていますが、「腫れた日」の少なさは経済や人間関係にも多大な影響を与えます。
拙著「説得の戦略」P 16でご紹介したルイヴィル大学の実験では、「晴れの日」のキャンパス内でのアンケート承諾率はそうでない日に比べて格段に高いものでした。

つまり、晴れた日には面倒な頼みごとにも気分良く応じてくれる人が圧倒的に多かったのです。
数年前に、私自身が複数の家電量販店の店員さんに訊ねたところ、「雨が続くと商品が売れないけど、晴れた日にはよく売れる」という答えがほぼ全員から返ってきました(同書 P17)。

究極の説得とも言えるプロポーズについて、かのリッツ・カールトンは以下のような最高の演出をしてくれます。

米国・カリフォルニア州の海辺にあるザ・リッツ・カールトンで、従業員が1人の若い男性から椅子を貸してほしいと懇願された。理由を聞くと、海辺で彼女にプロポーズをするためとのこと。そこで従業員は、自らの判断で急ぎタキシードに着替えるとともに、浜辺には椅子とテーブルを準備。テーブルの上には一輪の花と冷えた上等のシャンパンを用意し、テーブルの傍にはハンカチを敷いた。プロポーズの際に跪けるようにするためだ。

天候を含めた環境が人間心理に及ぼす影響は計り知れないのです。
世界的なIT企業が米国のカリフォルニア州から多く生まれた原因の一つに、カリフォルニアの素晴らしい天候が関係していると私は思っています。晴れて気分のいい日が続くと、人間は気分が前向きになり、新しいアイディアも生まれやすいのではないでしょうか?

大昔の冷戦時代にアメリカを訪れた旧ソ連のフルシチョフ書記長は、「カリフォルニアの空気だけは素晴らしい」と讃えたそうです(それ以外に米国には見るべきものがなく、ソ連の方が上だという皮肉を込めていたようですが…)。こんな曇天が続いてしまうと、商品は売れず、外食も栄えず、交渉事はまとまらず、プロポーズの失敗確率も高くなる(?)のではないかと危惧しています。

こうした中で、業績を伸ばすことのできる数少ない業界はタクシー業界かもしれません。
ある経済書によると、雨の日のニューヨークではタクシーを捕まえるのが困難だと書かれていました。その原因として、雨の日は乗客が多いのでその日のノルマを達成したと感じた運転手さんが早々に引き上げてしまうからだそうです。

その話を日本のタクシーの運転手さんにしたところ、「私たちは逆ですねー。雨の日や雪の日のようにたくさんのお客さんを乗せることができる日は、普段より頑張って働きますよ」とのことでした。

勤勉な日本のタクシー運転手さんたちにとっては恵みの雨かもしれませんが、そろそろ「もっと光を!」と叫びたくなる今日このごろです。

余談ながら「もっと光を!」は文豪ゲーテの臨終の言葉として有名ですが、まったくのデタラメだという説もあります。

説得の戦略 交渉心理学入門 (ディスカヴァー携書)
荘司 雅彦
ディスカヴァー・トゥエンティワン
2017-06-22

編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2017年8月16日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。