【映画評】打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?

夏休みの登校日。海辺の町に住む中学生の少年たちは、花火大会を前に「打ち上げ花火は横からみたら丸いのか?平べったいのか?」で盛り上がり、それを確かめるために灯台から花火を見る計画を立てていた。そんな中、典道と祐介は、クラスのアイドル的存在の美少女・なずなに遭遇。なずなは母親の再婚で転校することになっていて、典道は彼女に誘われ「かけおち」しようとするが、なずなは母親からあえなく連れ戻されてしまう。それを見ているだけでどうすることもできない典道は、もどかしさから「もしもあの時、俺が…」との気持ちで、海でみつけた不思議な玉を投げると、なぜか連れ戻される前に時間が巻き戻っていた…。

岩井俊二監督の初期の傑作であるテレビドラマを長編アニメーション化した「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」。“もしも、あの時、自分がこうしていたら…”をテーマに、繰り返される夏の1日を描く、ラブ・ファンタジーだ。1993年のオムニバスドラマ「if もしも」は人生の選択の分岐点をテーマに2つのラストの物語を順番に見せていくというユニークな企画で、岩井作品はその1つだった。人生の選択とは、実写でも、アニメでも、非常に奥深いテーマだが、今回のアニメ化の大きな変更点は小学生を中学生に変え、より恋愛要素を強くしたことだろう。オリジナルを知らなくても、しっかりと内容が伝わる上に、不思議な玉によって1日を繰り返し、さまざまな“もしも…”を描くというファンタジーには、アニメという手法は、よりふさわしいように思う。

思えば、大人になればなるほど“if もしも”を考えることが増える。それは今を悔やむことではなく、もしかしたらあったかもしれない人生に、自分の可能性を見出すことを知ると前向きに考えたい。オリジナルの作者でもある岩井監督曰く、「銀河鉄道の夜」がこの物語のモチーフなのだそうだ。みずみずしい夏の1日に写り込む、切なさや残酷さ、諦念の思いが“電車の中”にいるなずなと典道によって伝えられる様は、なるほど銀河鉄道である。花火の刹那の美、青春の危うさときらめきを、アニメーションの世界で見事に再構築している。
【70点】
(原題「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」)
(日本/総監督:新房昭之/(声)広瀬すず、菅田将暉、宮野真守、他)
(ファンタジー度:★★★★☆)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2017年8月18日の記事を転載させていただきました(アイキャッチ画像は公式Twitterから)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。