ホワイトハウスからの人員流出継続、ウォール街の巨人も去る

スティーブ・バノン首席戦略官が辞任した同じ日、ウォール街の大物がトランプ米大統領の許を去りました。

その人物こそ、特別顧問だったカール・アイカーン氏。2017年8月時点の年収が159億ドル(約1兆7,500億円)とされ、ただでさえ富裕層で知られる3G政権の総資産を1人で一段と押し上げていましたよね。

18日にトランプ米大統領宛てにリリースした声明では、自身が請け負った特別顧問はホワイトハウス内の正式な役割ではなかったものの「超党派間での論争」を回避するために辞任を決断したと明かしています。「超党派間での論争」というのは、行政管理予算局(OMB)の傘下にあり規制の審査を担当する情報・規制問題室の室長に就任したネオミ・ラオ氏の存在があります。

アイカーン氏は米大統領選からトランプ氏を支持し、規制緩和の必要性を訴えてきました。その結果、ラオ氏のOIRA室長とアイカーン氏の立場の違いが問題視されたというわけです。アイカーン氏は、書簡で「超党派間での論争」が「政権とラオ氏の重要な任務に暗雲を投げかけたくない」と説明していました。

というのは、表向きの理由です。アイカーン氏がどうしても辞任を表明すべきだった背景こそ、“利益相反”です。同日にリリースされたニューヨーカー誌の記事が決定打となり、政権との関係を断ったとみられています。

アイカーン氏は、ガソリンを精製する上でエタノールなどバイオ燃料混合を義務付ける再生可能燃料基準(RFS)の撤廃バイオ燃料を混合しない場合は再生可能識別番号(RIN)のクレジットを購入する枠組みの廃止を求めていました(なお、この規制はブッシュ政権時に成立)。ここで注目されたのがアイカーン氏のポートフォリオで、石油精製業者CVRエナジーの持ち株比率は一時82%に及んだといいます。トランプ米大統領がアイカーン氏を特別顧問に指名した2016年12月22日にCVRエナジーの株価が上昇、年末には52週高値を更新しました。逆に、RINのクレジット価格も下落したものです。

CVRエナジーは米大統領選後まもなく急伸し、その後は上げ幅縮小。


(出所:Nasdaq

専門家は、連邦政府に助言する役割の者が金銭的利益を得ることを禁じる合衆国法律集第18編203条に違反している可能性があると指摘してきました。アイカーン氏陣営は問題ないとの見方を示してきましたが、ここにきて御旗を下ろした格好です。

CNBCによると、結局RFSの撤廃やRINのクレジット購入枠組みは廃止されていません。しかしロシアゲートやホワイトハウスの人事刷新、加えてバージニア州シャーロッツビル事件の対応など批判材料に事欠かない政権にとって、スキャンダルは最小限に抑えたいところ。そのせいかトランプ米大統領は、アイカーン氏と長年の付き合いがあるものの同氏の書簡に反応せず。2014年には、トランプ氏が破産申請を行ったニュージャージー州アトランティック・シティのカジノ施設“トランプ・タージ・マハル”をアイカーン氏が取得するなどビジネスでも深い関係でしたが、NY時間の8月20日時点で無言を貫いています。バノン前首席戦略官の時はツイッターで称賛を送ったものですが、この違いは何を意味するのでしょうか。

(カバー写真:tua ulamac/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2017年8月21日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。