先ごろ、スティーブ・バノン首席戦略官が役目を解任されましたが、この件に対して、メディアは「強硬派のバノン氏」と「クシュナー氏などの穏健派」との対立が背景にあったと、判で押したように報道しています。
たしかに移民政策や対メキシコ姿勢では、バノン氏は「強硬派」です。しかし、「戦争」に関しては、まったく逆の姿勢です。
今年4月に、アメリカは、シリアの空軍基地を巡航ミサイルで攻撃しました。アサド政権がサリンなどの化学兵器を使用したというのが理由です。
その直前ですが、バノン氏はNSC(国家安全保障会議)のメンバーを解任されました。安保政策で政権内での対立があったとされました。バノン氏はシリアへの空爆に反対しており、クシュナー上級顧問やマクマスター補佐官らと対立しました。解任にはクシュナーの進言も大きかったと言われている。
「シリアに介入しない」と声明した舌の根も乾かないうちにトランプ政権がシリアを電撃空爆した事実は、今現在の北朝鮮問題を考える上でも忘れてはならないポイントです。
バノンは「本音」を外部に喋ったために政権を追放された
8月18日、ホワイトハウスは突如、バノン氏の事実上の政権追放を発表しました。BBCはその原因についてこんなふうに報じています。
Steve Bannon fired as Trump White House’s top strategist 19 August 2017
Mr Bannon’s interview this week with the American Prospect, a liberal magazine, reportedly infuriated the president.
(リベラル誌アメリカン・プロスペクトのバノン氏への今週のインタビューが、大統領を怒らせたと伝えられている。)
The White House aide was quoted as dismissing the idea of a military solution in North Korea, undercutting Mr Trump.
(ホワイトハウスの補佐官が北朝鮮の軍事的解決策を却下したとして〈同誌で〉引用され、ミスター・トランプ〈の大統領としての価値〉を下げた。)
意訳ですが、これだけだと大雑把すぎて、あまり状況がよくつかめません。
問題のアメリカン・プロスペクト誌を見てみたら、おそらく、報じたメディアは物事の「本質」を見過ごしているのではないかという気がしてきました。
バノン氏は「オフレコ」で話したということです。ということは、彼が「本音」を語ったことを意味します。トランプ政権「内部」の真実を率直に伝えるものです。
問題の電話“インタビュー”記事がこれですね。
Trump’s embattled strategist phones me, unbidden, to opine on China, Korea, and his enemies in the administration August 16, 2017
(トランプ政権の戦う戦略官は、中国、北朝鮮、彼の政権内の敵について、〈公表することが〉禁じられている意見を、私に電話してくれた)
筆者のロバート・カットナー氏は、プロフィールによると、同誌の共同創設・編集者であり、大学教授でもある人物です。
内容によると、バノン氏は何年にもわたってカットナー教授の記事をフォローしてきたそうで、電話で話せたことをとても光栄であると語ったようです。
バノン氏によると、トランプ政権の本命は中国であり、又中国との経済戦争である。政権内には、あと25から30年の間に中国が覇権を握るかもしれないという意見すらある。対して、北朝鮮の件は余興にすぎない。つまり、中国との戦いは困難だが、北朝鮮はすぐに倒せる相手だというふうに、政権が認識していることが分かります。
で、問題の箇所は、カットナー氏の次の意見に対する、彼の受け答えなんですね。
“The risk of two arrogant fools blundering into a nuclear exchange is more serious than at any time since October 1962.” Maybe Bannon wanted to scream at me?
(キムとトランプという、二人の傲慢な馬鹿者が核を撃ち合うリスクは1962年10月〈キューバ危機〉以来、どの時よりも深刻だ。バノンは私に何か叫びたいのではないか?)
Contrary to Trump’s threat of fire and fury, Bannon said: “There’s no military solution [to North Korea’s nuclear threats], forget it. Until somebody solves the part of the equation that shows me that ten million people in Seoul don’t die in the first 30 minutes from conventional weapons, I don’t know what you’re talking about, there’s no military solution here, they got us.”
(トランプ氏の砲火と激怒の恫喝とは対照的に、バノン氏は言った。「(北朝鮮の核の脅威への)軍事的解決策はない、忘れるんだ。ソウルの1000万人が通常兵器によって最初の30分内に死なない方法を提示してくれるという方程式部分を誰かが解決するまで、私はあなたが何を話しているのか分からないし、軍事的な解決法はない」)
トランプ政権の方針はバノンの意見とは正反対と考えるべきだ
最後のセリフは、1994年の第一次朝鮮半島核危機を回避した際のロジックそのままです。当時のペンタゴンは、米韓軍だけでなく100万以上の民間の犠牲者が出ると試算しました。それでクリントン大統領は攻撃を断念したという公式史になっています。
平たく言えば、バノン氏はその二十数年前の論理を繰り返したということ。そして、そういう意見を世間に漏らした直後に、彼は解任されたわけです。
なぜなのか? いったい何が問題なのか? 私は下のように直感しました。
バノン氏は、対北開戦反対の論陣を張っていて、政権内で孤立していたのではないか。そして、自分の意見が受け入れられない不満から、それを外部のマスコミに向かって言ってしまった。あるいは、トランプ大統領側がそう受け取ってしまった。
だから、大統領の強い怒りを買い、即、政権から追放されてしまったのではないか・・。
つまり、今回のケースは、シリア空爆に反対して、国家安全保障会議(NSC)のメンバーを解任されたのと同様ではないかと、推測することも可能なわけです。
今回は、外部に向かって言ってしまった為に、追放処分になったのでしょう。
一般企業の最高経営会議でも、一人の重役が内部で経営方針に反対する分にはまだ大目に見られます。しかし、外部に向かってそれを公言したら、組織的に問題になります。「会社を裏切った」と見なされて、厳しく処分されるのが普通です。
今回、バノン氏もこれと同じ不興を買ったのだとしたら、トランプ政権としての対北朝鮮政策は、バノン氏の意見とは「正反対」とは推測できないでしょうか。
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(フリーランスライター・山田高明 個人サイト「フリー座」)