カタール危機膠着でオマーンが恩恵を受けている、今のところは

8月31日。
ダイアナ妃がパリで事故死してから20年。メディアでは特集が組まれている。

あの日、筆者はウィーンにいた。中東協力センター主催の「現地会議」で、イランの現状について報告をし終えた直後だった。

今日はまた、サウジのムハンマド皇太子(MBS)の誕生日でもある。ダイアナが事故死したあの日、MBSは12歳の誕生日だった。彼はどこで、どんな気持ちでニュースに接したのだろうか。

さて、MBSが主導したと見られている「カタール断交」は、いまだ解決への道筋が見えない。そんな中、英経済誌『エコノミスト』に掲題タイトルの記事が掲載されていた(”Oman is benefiting from the standstill over Qatar, for now” 30th Aug 2017, Muscat)。

筆者は、某メディアに寄稿した『「カタール断交」から見えてくるサウジの未来』と題する小文の中で「カタールの次はオマーンか」と書いた記憶があるが、分量調整もあり、何度も書き直したので削除してしまったかもしれない。GCC(湾岸強力会議)のメンバーではあるが、いわゆる「リヤド協定」にも参加しておらず、サウジの主導権に距離をおいているオマーンの行動が、サウジを苛立たせているのは間違いないだろう。

はてさて、次の展開はどうなるのだろうか?

「エコノミスト」記事の要点を、文字数が許す限り、次のとおり紹介しておこう。

・いつもなら閑散としている夏のソハール港(オマーン)だが、今年は非常に賑わっている。政府高官によれば、この2~3ヶ月、カタール向けの増加により、貨物量は約30%増えている。UAEのジュベルアリ港代替の新しい玄関口だと、駐オマーン・カタール大使は持ち上げている。

・オマーンは今回の争いから距離を置き、カタールを手助けし、静かに恩恵を受けている。

・オマーンは度々、地域における仲介役を演じているが、今回は最初からどちらに同情しているかを明らかにしていた。6月にカタール航空がサウジ領空を飛べなくなったとき、行き場を失ったカタール人たちをジェッダからドーハに、飛行機を貸出して、輸送したのだ。以来、両国の関係は強化された。

・最近、マスカットで開催された海外投資促進会合には、20人しか期待していなかったにも関わらず、150人のカタール人投資家が参加した。

・オマーン高官は、サウジを苛立たせたくないので「恩恵は受けているが、そうは見られたくない」と語っている。オマーンは、従来からサウジが湾岸で支配的になることに抵抗している。年老いたスルタン・カブースは、たとえば域内統一通貨を作ろうという動きに反対した。カタール同様、イランともいい関係を維持している。したがって、カタールは今回の動きを注視している。もしカタールが独立色を強めたことで罰せられているなら、次はオマーンではないと誰が言えるだろうか。

・オマーンは徐々に近隣諸国への依存度を下げている。カタールとイランとの関係を強化し、中国から36億ドルの融資を受けた。かつてはサウジやUAEに資金を求めていたものだが。中国は(オマーンの)Duqm産業港湾都市への投資を増やしており、あるアナリストによれば「中国の経済都市のよう」になっている。

・カタールいじめは地域全体の緊張を高めている。アメリカ、ドイツ、クゥエートによる仲介努力は失敗した。カタールは、8月23日にイランとの外交関係を完全に復活させたが、これはカタールの立場を明確にするものだ。オマーンは当面、恩恵を受けている。だが、もし争っている国々が中東のどの地域でも不安定にするならば、大混乱に陥り、誰のためにもならないだろう。


編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2017年8月31日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。