元CAに聞く!航空機の重大インシデントに巻き込まれたら

写真はインタビューに答える七條氏。

先日、アゴラに掲載したCAシリーズ(計3回)は有難いことに好評をいただいた。同テーマでの掲載は一定の目的を達成したことから一旦終了と告知をさせていただいた。しかし、先日、大きなトラブルが発生した。JAL機がエンジントラブルで羽田空港に緊急着陸した問題である。国交省も「重大インシデント」として認定している。

これは、5日午前11時ごろ、乗客乗員251人を乗せて羽田空港からニューヨークに向けて出発した日本航空6便が離陸の際に左エンジンから出火し、緊急着陸をした事故のことを指す。国交省外局に設置された運輸安全委員会は機体がある羽田空港の格納庫に調査官3名を派遣し、7日も引き続き原因究明の調査がおこなわれる。

私たちは、航空機を利用する中で、いつこのようなトラブルに巻き込まれないとも限らない。今回は、トラブルに巻き込まれて、CAから安全に関わるお願いがあった場合には、どのように対処すべきかという視点で緊急取材をおこなった。取材に協力をいただいたのは、前回と同様、七條千恵美(以下、七條氏)になる。

まず、七條氏の略歴を紹介したい。社内でも影響力のあるCAが選ばれる「Dream Skyward優秀賞」を受賞。皇室チャーターフライトの選抜メンバーにもアサインされ、社内考課ではS評価を獲得している。その経験が評価され、サービス教官として1000人以上を指導した実績もある。近著に『接客の一流、二流、三流』がある。

客室乗務員は保安要員であること

運輸安全委員会が究明につとめているので、事故関係の説明は不要です。乗客がこのようなトラブルに遭遇した際、どのような点に留意すべきかという視点で伺います。

「今回の緊急着陸の報道を見て、なにかコメントを求められた場合、わたくしが元JAL社員として、まず始めに言わなければならないことは、『お客さまに対して、怖い思いをさせてしまったこと、そして、大幅な遅延で混乱を招きご迷惑をおかけしたことに対してのお詫び』を申し上げたいと思います。」(七條氏)

「そのあとで個人的な思いを語ることを許されるならば、緊急着陸という事態に遭遇した乗務員に対して、心から『お疲れさまでした』と伝えたいです。」(同)

CAの仕事を間違えて解釈している人が多い。搭乗すると笑顔で出迎え、機内でのサービスばかりに目がいく。しかし、これは「航空機が正常運航されている」場合に限られている。本来のCAの仕事は保安要員であることを忘れてはいけない。

「華やかさがクローズアップされやすいCAですが、保安要員としての覚悟と責任は常に頭にあります。 CAになったばかりのころ、家族から『万が一のときは、どんなに世間から非難されても守るから、頼むから一番に逃げてほしい』と言われたことがあります。わたしは、家族の想いも知らず、強い調子で言い返しました。」(七條氏)

「『そんなことできるわけないでしょ!お客さまを脱出させたあと、必ず私もちゃんと無事に逃げるから』という内容でした。今回のトラブルを聞いたとき、このときのことを思い出しました。今も昔も、他人から『CAなんて空のウエイトレス』と言われると憤りを感じるのはそのような覚悟で仕事をしていたからだと思います。」(同)

緊急事態時にはCAの指示に従うこと

CAになるための訓練では、緊急時の対応を繰り返し習得させられる。正常運航事は通常のサービスをしながら、なにか異常がないかと神経をとがらすことになる。

「サービス訓練もエマージェンシーの訓練もとても厳しいものですが、当たり前です。お客さまの命に関わる仕事であり、『知りません。できません』は通用しない世界なのです。『わたしがやらなきゃ誰がやる』そのような強い気持ちがなければ務まらないのがCAの仕事だと思います。」(七條氏)

「CAは、休憩中であっても『安全』が頭を離れることはありません。『安全に関わるお願い』は、お客さまにとっては煩わしいものもあるかもしれませんが、どうかそのようなときには、快くご協力いただければと思う次第です。」(同)

最後に、七條氏からひと言を付け加えて締めたいと思う。「航空機の安全に関わるコメントは、サービスに関わるものとは気持ちも大きく異なります。特に今回のケースは取材をお受けするか迷いましたが、保安要員として乗務していたときの気持ちがよみがえり『伝えたいことがある』という想いに至りました」。

CAは憧れの職業と言われるが、冷静に考えれば相当の激務になる。乗客も、そのような実態があるということは知っておいた方がいいだろう。ハイレベルなサービスを提供する航空業界のノウハウは奥が深いようである。

さて、話は変わるが、約3年半ぶりに出版をした。タイトルは『007に学ぶ仕事術』。アゴラでは、「ビジネス著者養成セミナー」という著者希望者のためのセミナーを隔月、「出版道場」という出版ニーズに応えるための実践講座を年2回開催している。

私は、著者や出版社から献本されたなかで、ニュースとして相応しいものを紹介記事として掲載している。今回はそうしたなかで、記事が編集者の目に留まり出版にいたった。読者の皆さまへ感謝としてご報告を申し上げたい。

参考書籍
接客の一流、二流、三流』(明日香出版社)

尾藤克之
コラムニスト

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