今朝、FTが “France plans for ban oil and gas production by 2040” という記事を掲載していた。時事通信等、日本のメディアも報じていたのでご既承のとおり「フランスの国内(海外領土を含む)での石油ガス生産を2040年までに禁止する法案」を提出する、というニュースである。
ご存知のように、フランスは日本と同じように産油国ではない。詳細は承知していないが、仮に国内で生産されていてもごく少量で、2040年までにはほぼ生産し尽くす程度のものと想像できる。もし、この法案が、スーパーメジャーの一角を占めるTotal社を含むフランスの全ての企業の、フランス以外の国における石油・ガス生産をも禁止する、というのであれば、相当な影響が出るが、フランス領土内に限定するのであれば、世界の石油需給にはまったく影響しない。
政府としては、今回のように、自らの権限にある「掘削許可」を新規に出さないという形でしか対応はできないだろう。したがって、これは地球温暖化対策の「パリ協定」を推進しようとする仏政府の政治的パフォーマンスに過ぎない、と判断していた。弊ブログで取り上げるほどのニュースではないな、と。
ところが今しがた、Twitterで著名人がコメントしているのを読んで、そうか、そう受け止める人もいるのか、とため息をついたところだ。エネルギーとは、電力だけではないんですよ、と改めて注意を喚起したいと思い、あえてこのブログを書き始めた。
「BP統計集2017」によると、2016年のフランスの一次エネルギー消費構成比率は次のようになっている。
石油 32.4%
ガス 16.2%
石炭 3.5%
原子力 38.7%
水力 5.7%
再生エ 3.5%
一次エネルギーの総消費量は、石油換算2億3,900万トンで日本のほぼ半分くらいだが、化石燃料全体では日本の90.8%に対して52.1%となっており、その差が原子力の比率にある。原子力はすべて発電用だろうが、エネルギーは他にも輸送用、燃料用、あるいは石油化学の原料としても使われており、今回のニュースで、フランスは2040年までに石油やガスをいっさい使わなくなる、と読み込んでしまうのは大きな誤解だ。フランスは、日本と同じように、必要な石油・ガスは輸入しており、これからも輸入し続けるだろうからだ。
また、先ごろ仏政府が決めた、2040年までにガソリンやディーゼルを燃料とする自動車の生産を禁止する、というのも、light duty vehicleが対象であって、あえて訳せば「乗用車」ということだ。ニュースを読むかぎり、トラックやバスなどのheavy duty vehicleは対象になっていない。これらのトラックやバスには、天然ガスの使用を期待する、という仏政府筋の発言がどこかにあったと記憶する。
地球温暖化対策に有効な政策は極力採用する、という観点からいえば、仏政府の今回の決定は無意味ではない。だが、冷静に考えれば、産油国ではないフランスだからできること、とも言えるだろうな。
編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2017年9月7日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。