従来の、供給が近いうちにピークを迎える、というものに代わり、供給より先に需要が近い将来ピークを迎えるだろうという「新オイル・ピーク論」が業界の主流の見方になっているが、では「いつ?」ということについては種々様々な意見がある。これまで長期予測を発表しているBPやエクソン、あるいはIEAやOPECも、ベースシナリオでは2035年、あるいは2040年までには到来しない、としている。
9日朝読んだFTによると、シェルも長期予測を発表し「石油需要は2035年までは伸び続ける」としているそうだ。
面白いね。
いや、それよりも、件の「長期予測」をきちんと読まなければいけないな。
さて、FTの “Shell criticizes proposed ban of non-electric cars” (around 2:00am on 9 Sept 2017) の要点を、スペースの許す限り次のとおり紹介しておこう。
ちなみにサブタイトルは “Governments should not ‘pick winners’ among green technologies, oil group says” となっている。
・シェルは、気候変動対策のベストのやり方は市場に決めさせるべきだとして、ガソリン・ディーゼル車(以下、在来型乗用車)を禁止することは、よりエネルギー効率の良い内燃エンジンの開発を妨げ、逆効果になる、と述べた。この夏、英仏両政府は、2040年までに在来型乗用車の新規販売を禁止する計画を発表した。
・シェル戦略部門のトップMr. Guy Olsenは、目的は支持するが、政府がグリーン・テクノロジーの「勝者を選ぶ」べきではない、と語った。代わりに、排出への課税により様々な(グリーン・テクノロジーへの)投資を奨励すべきだ、と。
・このシェルの議論は、政府が電気自動車の後押しをして、在来型乗用車が占めている全体の26%に相当する石油需要を自己防衛するだけのものでしかない、とみなされるであろう。
・然し、Mr. Olsenは(政府の禁止計画は)より多くの排出量減少策であり、より早く石油需要を減らすことにつながる可能性の高い、内燃エンジンの効率化への投資を遠ざけることになる、と主張する。開発途上国における在来型乗用車台数の伸び率を見る限り、EV車より燃料効率を高める方が石油需要に対しては3倍の効果がある、と。
・金曜日に発表した長期予測の中でシェルは、積極的なEV車導入策が取られても、石油需要は2035年までは増え続けるだろう、としている。このシナリオでは、世界全体の新車販売においてEV車は現在の1%から2025年までには10%、2035年までには30%になるとしている。
・ノルウエーのリスク・マネージメント会社DNV GLの今週の報告では、EV車の製造コストが在来型乗用車と同水準になる2022年に、石油需要はピークを迎えると予測している。
・Mr. Olsenは、2030年代より前に石油需要が落ち込むためには「需要を無理やり減少させる」ような政治介入が必要だろう、という。シェルは、海上風力発電とかバイオ燃料などのグリーン・テクノロジーへの投資を増やしているので、低炭素社会への移行を恐れてはいない、と語っている。
・シェルは、英国およびオランダの自社ガソリンスタンドの何箇所かに(EV車用)充填所を設け始めており、電力取引や電力小売りも拡大しているが、これはシェルがエネルギーシステムの中で電力が大きな役割を果たすことへの準備をしていることの現れである。
・「化石燃料は1950年代以来、世界のエネルギーミックスの約80%を占め続けている」とMr. Olsenはいう。「これは20~30年で変化するだろう。おそらく非化石燃料は40%になるだろう。全く異なったエネルギーシステムになると思われる」
・しかしながらMr. Olsenは、重量物輸送(トラックやバスのこと)、航空輸送、多くの産業用、化学用など、経済活動の大きな部分を占める分野で簡単には代替できない、したがって、世界の気温を下げるためにはCCS(二酸化炭素回収貯留)が不可欠だろう、という。
・多くのことが、中国やインドなどの発展するアジア経済が、公共交通を活用してヨーロッパのコンパクトシティ・モデルか、あるいはアメリカの車社会モデルの、どちらを模倣するかにかかっている。一人あたりのエネルギー消費では、ヨーロッパはアメリカの約半分となっている。
編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2017年9月9日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。