【映画評】あさがくるまえに

フランス北西部の都市ル・アーヴル。夜明け前に友人とサーフィンに出掛けたシモンが交通事故に遭う。知らせを受けて病院に駆け付けた両親は、息子が脳死と判定されたことを告げられる。動揺する両親は、医師から移植を待つ患者のために臓器の提供を求められ、激しい戸惑いを隠せない。だが臓器移植が可能な時間は限られていた。その頃、パリでは心臓疾患患者のクレールが臓器提供を待っていたが、もう若くはない彼女は、他人の命と引き換えに延命することの意味を自問自答していた。そんな時、担当医からドナーが見つかったという連絡が入る…。

心臓移植をめぐって葛藤する人々の24時間を描いた人間ドラマ「あさがくるまえに」。原作は、メイリス・ド・ケランガルのベストセラー小説だ。脳死と判定された息子の臓器提供の選択を迫られる両親、生きるには心臓移植しか選択肢がないのに移植をためらう中年女性、限られた時間の中で奔走する移植コーディネーターなど、複数の人間が思い悩む様を描く群像劇だが、同時に心臓という真の主人公を軸とした、骨太な生と死のドラマでもある。映画は、心臓を提供する側、受ける側、それぞれの家族の思いを丁寧にすくい取りつつ、繊細な映像でみずみずしさを醸し出す。それでいて、医療現場や手術の描写は異様なほどリアルなのだ。観客は、この不思議なバランスの中にある感動に、心を奪われてしまうだろう。

女性監督のカテル・キレヴェレは、本作で、愛する人の死後、残された者たちが、どうやって生へアプローチするかを描いている。視点は常に生者の側だが、そこには逝ってしまったシモンへの愛情が確かに横たわっているのだ。夜明け前の青い空気の中、少年が海に向かう冒頭の場面は、悲しいほどポエティックで、見終われば、寄せては返す波の先にある生命の源のような海が、深い意味を帯びる。俳優たちは皆好演だが、移植コーディネーターのトマを演じるタハール・ラヒムがとりわけ素晴らしい。約束通りシモンに波の音を聞かせたトマが、夜明けの道をバイクで走る場面は、美しく忘れがたい。トマは医療現場で働くスタッフだが、物語の中では、死者と生者をつなく天使のような存在なのだ。キレヴェレ監督の作品を見るのは、本作が初めてなのだが、その才能は疑う余地はない。医療ものや社会派ドラマに傾かず、あくまでも一人一人の心情に寄り添うポートレイト的な手法と、卓越した映像センスが、この映画を高いレベルに引き上げている。
【85点】
(原題「REPARER LES VIVANTS」)
(仏・ベルギー/カテル・キレヴェレ監督/タハール・ラヒム、エマニュエル・セニエ、アンヌ・ドルヴァル、他)
(再生度:★★★★★)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2017年9月18日の記事を転載させていただきました(アイキャッチ画像は公式Facebookページから)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。