根拠に基づく政策形成は行政を改革する

台風18号は九州から北海道まで通過し各地に被害が出た。被災された皆様にお見舞い申し上げます。気象庁は台風の接近前から大雨や防風・波浪などについて警報や注意報を発表し警戒を呼び掛けてきた。また、記録的短時間大雨情報などが発表されることも最近では珍しくない。

これらの警報・注意報・情報は国民生活に役立っているだろうか。誰でも「イエス」と答えるだろうこのような問いかけも、行政改革のためには必要である。

行政策は三つの基準で評価される。第一は必要性である。台風は土砂災害をもたらし国民の生命に危険を及ぼす。経済的に大きな影響がでる場合もある。台風への対策は必要である。

次の基準は有効性である。台風への対策には多様な代替案が考えられる。危険の発生が予測される地域で事前に備えるだけでなく、巨大な力で台風の進路を変えるという極端な策も考え得る。台風が頻繁に来る台風銀座を居住禁止にするという案もある。しかし、巨大な力を発生させた場合の周辺への物理的な被害から地球環境への悪影響までを考えると、今のように台風の進路にあたる地域が順番に備えていく受動的な対策のほうが現実的である。また、避難所への事前の避難などは足元に不安がある高齢者など災害弱者の生命を守るために有効である。台風銀座の居住禁止も極論だが、コンパクトシティ化に合わせて推進すれば効果がでるかもしれない。

最後は効率性である。全国一斉に警報を発表して台風の進路以外の地域でも備えておけば被害は最小になるが、無駄は多い。警報などの対象地域を絞れば事前の備えの費用は節減できるが、進路が外れた場合に大きな被害が出る恐れがある。このような費用と効果のバランスを考えて警報を発表しなければならない。

行政策は必要性・有効性・効率性によって評価される。

気象警報の発表に関係する「アメダス観測」が今年の行政事業レビュー公開プロセスの対象になった。公開プロセスの様子はすでにアゴラに掲載したが、必要性・有効性・効率性の観点で説明を追加したい。

「アメダス観測」はどのように評価されるのだろうか。レビューシートには成果指標として「降水短時間予報における2時間後から3時間後までの1時間雨量の予測値と実測値の比」とあった。アメダスの観測データから天気予報が作成されるから予報の正確度で評価しようというわけだ。しかし、それでは予報計算の精度や予報官の能力までもが評価されてしまう。気象庁の提案した成果指標はアメダスの有効性と効率性を説明するのに十分な指標とは言えない。

そこで公開プロセスは、議事録にある通り、国民や地方公共団体、民間事業者によるアメダス情報の利活用という観点も加えて、成果指標を見直す必要があると指摘した。また、アメダス観測では各地のデータを専用線で集めているが、このコスト削減も課題となった。有効性に関連して、アメダスの観測網に加えてIoT時代を反映した新しい気象情報収集方法について研究開発を進めるべきと指摘した。

政府は根拠に基づく政策形成(Evidence Based Policy Making: EBPM)への取り組みを進めている。行政事業レビュー公開プロセスも行政策を評価・改善するPDCAサイクルを強化する取り組みとして位置付けられている。EBPMには行政改革を加速する可能性がある。情報通信政策フォーラムは9月28日にEBPMについてセミナーを開催する。ぜひご参加ください。