【映画評】ハイジ アルプスの物語

渡 まち子

ハイジは、アルプスの大自然の中で、頑固だが優しい祖父のアルムおんじと暮らしていた。ある日、ハイジは、足が悪く身体が弱いため車椅子生活を送る大富豪のお嬢様クララの話し相手として、大都会フランクフルトに行くことになる。明るく素直なハイジの励ましもあってクララは次第に元気になっていき、ハイジとは固い友情で結ばれていった。一方でハイジは、祖父が待つアルプスの山の暮らしが恋しくなる…。

世界中で愛されているヨハンナ・シュピリの児童文学を実写映画化した「ハイジ アルプスの物語」。日本では、名作アニメ「アルプスの少女ハイジ」があまりにも有名だが、実は過去に何度も実写映画化されている。今回は本国スイスでの実写化で、アルプスの雄大な大自然の描写がとりわけ素晴らしいのが特徴だ。アニメが50話以上の回に分けて、それぞれのエピソードを詳細に描いたのに対し、本作は、原点に回帰した“ダイジェスト版ハイジ”として手堅い作りである。

何と言っても素朴で元気なハイジがとても魅力的なのだ。ポスターで見た時は普通の少女に見えるが、スクリーンの中でイキイキと動く姿にたちまち魅了された。名優ブルーノ・ガンツが演じるおんじもイメージにぴったりである。少し意外なのは、悪ガキすぎるペーターと、美人すぎるロッテンマイヤーさんだろうか。アルプスの暮らしは、もはや憧れを通り越してファンタジーに近いが、それでも現代人に、大自然への畏敬の気持ちを思い起こさせる。おなじみの白パンのエピソードもいいが、ゼーゼマン家の召使のセバスチャンのさりげない優しさがいい。そして、クライマックスには、クララに起こる奇跡が待っていて、分かっているのに目頭が熱くなる。何しろ原作は不朽の名作。奇をてらわず、原作に忠実に映画化した本作は、人が本来持つ優しさや善意を全力で肯定するものだ。大人も子供も、素直に共感できる作品に仕上がっている。
【65点】
(原題「HEIDI」)
(スイス・独/アラン・グスポーナー監督/アヌーク・シュテフェン、ブルーノ・ガンツ、イザベル・オットマン、他)
(原点回帰度:★★★★★)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2017年9月20日の記事を転載させていただきました(アイキャッチ画像は公式Twitterから)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。