牧歌的なイメージは嘘です。命がけの「農家のリアル」

黒坂 岳央

こんにちは!肥後庵の黒坂です。

突然ですが、あなたは死亡率の高い職業ってなんだかわかりますか?そう問われて真っ先に思い浮かぶのは建設業。昔は建築業で命を落とす人がぶっちぎりに多かった時代がありました。建築業は高いところで作業をしたり重機に乗るイメージがあり、「安全第一!」などと声高に叫ばなければいけないくらいですからかなり危険という感じがします。

そんな危ないイメージのある建築業ですが現実はそうではありません。産業別に10万人あたりの死亡率の農林水産省のデータによると、建設業は年々死亡率が下がっています。その一方で農業はどんどん死亡率が高くなってきています。そうなんですよ!実は我が国日本で最も死亡率が高い職業は「農業」です!!

画像引用元:産経ニュース『農業は「危険な職業」だった!? 死亡事故割合は建設業の2倍 目立つ高齢者の機械操作ミス』

深刻な農業の高齢化

農業の高齢化は深刻な問題で、今や農家に従事する60%以上が65歳以上の高齢者です。これを聞くとビックリしませんか?65歳といえばほとんどの人は退職し、年金や退職金でこれから第2の人生を謳歌しようという年齢じゃないですか。その後何かしら働くにしても現場の最前線でバリバリ気合を入れて働く、というのはいまいちイメージが湧きません。

しかし農家の世界では65歳以上という年齢は普通に現役世代です。半数以上がこの65歳という年齢ですからね!そして農作業中に死亡事故を起こしている65歳以上は75%もの高い割合を占めています。これには高齢による判断ミスとか、体力の衰えといった人間の老化という自然の摂理によるものが原因とされています。

つまり、農業はトラクターなどの器具を操縦したり、炎天下や台風の中で作業したりと過酷な環境であること、それに加えて高齢化が進んでいることで死亡率が高くなってしまっているわけです。

台風で頭の上をドラム缶が飛んでいった話

そして農業を語る上では避けて通れないのが「台風」で、特に九州は台風が悩みのタネです。あなたは気象ニュースを見ている時に「勢力の強い台風が九州地方を…」というキャスターの解説を聞いたことがありませんか?台風が来ると何かと九州地方が取りざたされますが、これはそれだけ毎年台風の被害を多く受けていることから来ています。

当店のバイヤーから聞いた話で、台風のヤバさを物語るエピソードがあります。毎年やってくる台風ですが、ある時避難勧告がなされる勢力の強い台風がやってきました。その頃、現バイヤーはスイカの農家をしていました。周囲の農家は当然避難、間違っても畑を見に行ったりするのは命にかかわるヤバすぎる状態になっていました。周囲が止めるのも聞かず、バイヤーは畑のハウスが飛んでしまわないように支えるために表に出ていきました。台風のすさまじい勢力の前には人がハウスを押さえたところでどうにもなるものじゃありません。

あなたはこの話を聞いて「そんな命知らずな事をしてバカげている!」と思われたんじゃないですか?都会に住んでいる人からするとそれは当然の反応かもしれません。事実、周囲の農家の作ったハウスは次々に台風で飛ばされていきます。必死にハウスを押さえていたバイヤーの頭の上を大きなドラム缶が飛んでいったらしいです。空のドラム缶ってどのくらい重量あるかご存知ですか?大きいものだと20kg以上あるらしいんですよ。それが頭の上を飛んで行くとかどれだけ風力が強いのかわかると思います。

結局その年は周囲のスイカ畑は壊滅的なダメージを受けてしまいましたが、バイヤーの育てていたスイカ畑はダメージはあったものの、無事だったスイカも数多く生き残ったので品薄の中、高値で売れていったそうです(ハウスを支えていたことに意味があったかどうかは分かりませんが…)

作り話ような実話ですが、命を危険にさらして手塩にかけて育てたスイカを救いに行くのはさておき、台風が農家の世界でどれだけ危険なのかがおわかり頂けたと思います。

日本の農業を変えるのは「ビジネス」

台風は自然現象ですし、恵みの雨を降らせてくれるので「台風なんて消えてなくなってほしい!」というのは正しい考え方でないと思います。

私は日本の未来の農業を救い、維持するためには「ビジネス」を取り込むことだと思います。ハッキリいって日本のフルーツは安すぎます。すさまじい手間ひまと技術や知識、危険な状況に身を置いてつけられる価格があまりにも安いと思うわけです。世の中にあるあらゆる商品やサービスを考えてみてください。技術や手間がつぎ込まれているものって、全部相応の値段がするじゃないですか?当たり前ですよね?でも果物はその品質を維持するために手間や技術が込められている割には安すぎます。これは完全に農家さんの努力が安く値がつけられているとしか思えないんですよね。農業は間違いなくビジネス取引が行われて私達の食卓に上っているのは間違いないのですが、注ぎ込まれているエネルギーに見合った金額になっていないと思うんですよ。

農業にビジネスチャンスがあれば人が集まり、長い目で見ると労働環境も改善していくと思っています。最近はアグリビジネスで起業する人がちらほらいますが、農業の現場はカンとか経験がものをいうまだまだ超アナログな世界で、そのほとんどを支えるのは高齢者です。ここに若者が入り、経験やカンをIT化し、自然災害に負けないものを作るためには農業をビジネス化することが重要だと思っています。

ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。