9月19日、トランプ大統領は就任後初の国連総会の演説で北朝鮮を厳しく批判した。特に、金正恩がマレーシアのクアラルンプール空港で兄をVXガスで殺害したことと共に、横田めぐみさんの拉致事件にも言及。13歳の日本人少女を拉致したことを国家的な犯罪として非難した。
また、人権を重視する米大統領として北朝鮮が数百万人を餓死させる一方、無数の人々を政治犯収容所に投獄・拷問した責任を糾弾した。さらに、今年6月、平壌観光中に投獄され寝たきり状態で帰国後、死亡した米大学生の死亡は「北政権の致命的虐待だ」と非難した。核・弾道ミサイルだけではなく、これだけでも米国は対北軍事行動の名分が発生する。
トランプ大統領は「自殺行為に狂奔しているロケットマン」に対し「米国と同盟国を守ることを迫られれば、北朝鮮を完全に破壊するしかなくなる」としながら「米国は、これを必要としないことを願う」と発言した。タカは攻撃姿勢に入ると爪を隠す習慣がある。制裁と軍事的な威圧によって、北朝鮮の核・弾道ミサイルを止めるために最大の圧力をかけていることが分かる。これから米軍事行動実行への意思決定は北朝鮮の出方次第により決まると考えられる。
北朝鮮が核を手放さない理由は体制保護のためである。72年間続いた3代長期執権政権を守るのが一番の狙いだ。イラクのフセイン政権やリビアのカダフィ政権が崩壊したのは、核兵器を持たなかったために国内外の勢力によって倒されたと受け止めている。
マティス米国防長官は18日、「米国にはソウルに危険がない軍事オプションがある」と発言した。空母から電磁撹乱機を飛ばして敵の電力、電算、通信網を麻痺させた後に最先端戦闘機であるF22とF35による外科手術的空爆を行う方法がある。湾岸戦争の先例に照らして見れば、最初、巡航ミサイル数千発を発射して電略爆撃機が第2波、第3波の空爆を繰り返すと外科手術は2時間で終わる。
ティラーソン米国務長官は、外交的努力が失敗した場合、軍事オプションを排除しない意思を示しており、ヘイリー米国連大使は、トランプ大統領が北朝鮮の脅しが限界点を超えれば「世界が見たこともない炎と激怒で対抗する」と述べたことは「無意味な威嚇ではなかった」と強調している。ここで注目すべき点は、トランプ大統領が、北朝鮮の核施設だけ取り除く限定的な空爆ではなく、北朝鮮(の政権)を完全に破壊させると述べた事実である。対北軍事行動の選択肢がいよいよ煮詰まってきたことが伺える。今後、米国の定めた危険水位・レッドラインの近傍で金正恩政権の存亡をかけた攻防が続くことになりそうだ。
(拓殖大学客員研究員・元国防省北韓分析官、韓国統一振興院専任教授)
※本稿は『世界日報』(2017年9月22日)に掲載されたコラムに筆者が加筆したものです。