「朝鮮半島は冷戦最後の戦場だ」

ニューヨークの国連総会にデビューしたトランプ米大統領は19日(米東部時間)、40分を超える国連初演説の中で北朝鮮の核・ミサイル問題に言及し、「北側が考え直し、核・ミサイル開発を止めなければ、同盟国の安全を守るために北を完全に破壊しなければならなくなる」という趣旨の発言をした。

▲G20で日米韓3カ国首脳が会合(2017年7月6日、独ハンブルクで、韓国大統領府公式サイトから)

一国の首脳が国連総会の演壇から特定の国に対し、「完全に破壊する」と警告するのは、国連総会の長い歴史の中でもめったにないシーンだろう。それだけに、予想されたことだが、批判や反発も呼んだ。欧州の盟主メルケル独首相は早速、トランプ氏の演説内容を「不適切な発言」と批判している。

トランプ氏の「完全破壊」発言を聞いた北朝鮮の李容浩外相は「バカバカしい。犬の吠え声に過ぎない」と言い返した。北側は米大統領の発言に内心穏やかではないだろうが、強硬姿勢を崩すわけにはいかない。一種の売り言葉に買い言葉だ。

トランプ大統領は核・ミサイル開発に没頭する北朝鮮の金正恩労働党委員長に「ロケットマン」というニックネームをつけ、「彼はそれ以外、することがないのかね」とからかうなど、同氏の口は止まらないが、米朝間で幸い軍事衝突はまだ起きていない。

米大統領と北朝鮮との間では中傷・誹謗合戦が始まって久しい。国連総会の舞台で米大統領の発言を聞かされた国際社会は発言のユニークさに驚きながら、その行く末を案じる。舌戦がエスカレートして核戦争とならないか、という恐れをやはり完全には払拭できないからだ。

国連総会と同じ時期に開催中の国際原子力機(IAEA)関年次総会でも加盟国(168カ国)から北朝鮮の核・ミサイル開発を批判する発言が相次いだ。大多数の加盟国代表は北の核・ミサイル開発が国連安保理決議、IAEA理事会決議に反するとして北に早急な非核化を求めている。北はIAEAを脱退したため、ウィ―ンの本部で開催中の第61回年次総会には代表団を派遣していない。加盟国の対北批判は一方通行で終始するのは止む得ない。いずれにしても、国連本部のあるニューヨーク、第3の国連都市であるウィ―ンで目下、北朝鮮問題がホットな争点となっているわけだ。

米朝間の舌戦は現時点では、米国側にとっては「北の非核化を促す圧力」を、北側にとっては「米国への挑発、反発」を意味している。もちろん、口論だけではない。朝鮮半島周辺では米空母が来月は日本海に入り、中国とロシア両国は対北国境線周辺で軍事演習をしている。米朝間の軍事衝突のシナリオを完全には排除できないからだ。同時に、米朝間で非公式の外交交渉が第3国で展開中とも聞く。一方、北朝鮮の周辺国家、日本や韓国はストレスの多い日々を過ごさざるを得ないわけだ。

武力衝突という最悪のシナリオを回避するために、国際社会は結束して対北圧力を強化しなければならないが、対北制裁にもレッドラインがあるだろう。危険水域に突入すれば、軍事衝突を回避できなくなるからだ。金正恩氏は白旗を揚げることを潔しとしない指導者だ。金正恩氏が「完全破壊」を覚悟で武力衝突の道を選ぶことも考えられる(「『白旗』を掲げない金正恩氏への恐怖」2017年2月27日参考)。

ソ連・東欧共産政権が崩壊した直後、北朝鮮生まれの世界的宗教指導者文鮮明師は、「朝鮮半島の戦いがまだ残されている。朝鮮半島の南北問題を解決しない限り、冷戦時代は幕を閉じない」と述べたことがある。

血を流さず、冷戦の最後の戦場を勝利できるか、多くの犠牲者を再び出すか。われわれはその選択を強いられているわけだ。冷戦時代を何としてでも最小限の犠牲で閉じなければならない。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年9月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。