北朝鮮危機の背景:『米中の危険なゲームが始まった』

福島 香織
ビジネス社
★★★★☆


朝鮮半島の危機の背景には、もっと大きな問題がある。ランド研究所も指摘するように、中国の共産党政権が盤石とはいえないことだ。習近平国家主席は来月の党大会で再選される見通しだが、党規約に彼の「重大な理論的観点」を盛り込むという。これは毛沢東や鄧小平と同格だ。

本書によると習近平は2期10年を超える3期目をねらい、個人独裁をめざしているらしい。今度の党大会で発表される人事で、その体制がどの程度整ったかがわかるが、党内には「腐敗追及」と称して政敵を追い落とす習の手法に反発が強まっている。これに対して習が正統性を強化する道は二つある。

一つはプーチンのように(見かけ上の)民主化を進めて選挙で選ばれることだが、これは共産党独裁をリスクにさらすのでありえない。もう一つは対外的な危機を演出し、非常事態を乗り超えるために「強いリーダー」が必要だという理由で独裁を強化することだ。経済危機で、そういう状況に追い込まれる可能性もある。

北朝鮮も習近平体制を強化する重要なカードだから、しばらくは金正恩を泳がせておくだろう。経済制裁も、北朝鮮が石油の9割を輸入している中国が協力しない限り効果がない。中国がその気になれば、北朝鮮を支配下に置くこともできるが、習にとっては今のほうが都合がいい。

しかし習近平と金正恩の関係は「仮面夫婦」だ、と本書はいう。今のところ中国は北朝鮮を「生かさぬよう殺さぬよう」にして外交に利用しているが、中国にとって最も重要なのは米中関係なので、北朝鮮を犠牲にするシナリオもありうる。伝統的に「暴力国家」である中国圏で、政権が平和的に移行するとは限らない。

長期的には中国やロシアのような「ランドパワー」の専制国家が日米のような「シーパワー」の民主国家を軍事的に圧倒する可能性があるというが、逆に中国が民主化して政権が崩壊する可能性もある。いずれにせよ、北朝鮮の運命を決めるのは中国だろう。本書は軽いタッチで書かれているが、中身は具体的でバランスが取れている。