解散総選挙をにらんで情勢調査を巡る報道が一段と喧しくなってきた。都内選挙区を巡って、先日、選挙ドットコムが都議選時の得票を単純に当て込んだものながら小池新党優位を報じたかと思えば、昨日(22日)になってサンケイスポーツが自民党の情勢調査を独自に入手した特ダネとして、小池新党は予想外に低迷するという分析内容を報じた。ほかにも民進党が意外に健闘するかのような展望もあるようだ。
自民、新党が拮抗。4党共闘実現ならば圧勝! 衆院東京新区割の得票数シミュレーション【第48回衆議院総選挙】 | 平木 雅己 | 選挙ドットコム
率直なところ、これらの情勢報道について予断を持ちすぎるのは早計とは思う。もちろん、ここまでは与党主導で流れは進んでいるものの、安倍首相が週明け25日の記者会見で、どこまで説得性のある解散理由を説明できるか、あるいは小池知事が新党の代表に就任して前線に立つかなど、選挙戦の帰趨を決める「変数」はまだまだある。
情報や解釈は錯綜しているが、次期総選挙で、都内の選挙で大きな流れを決める一つの指標は公明党の出方だ。周知の通り、都議会では公明党は自民党と袂をわかって、小池知事サイドをパートナーに乗り換えた。そして都議選では、公明党が候補者を立てなかった地域では、都民ファーストの会(都ファ)の候補者を手厚く支援し、都議選圧勝に貢献。連立相手として一定の存在感を見せつけた。
自公は都議選の恩讐を超えられるか?牙城・八王子に注目
さて、都議選からわずか2か月で解散風が強烈に吹き始めたわけだが、この短い時間の中にあって、東京の公明党は、都政で手切れした自民党都連と、これまで通りの国政選挙と同じく、パートナーシップを本当に取り戻せるのかに注目が集まっている。
シンボリックな場所として注目したいのが東京24区(八王子市)。ここの現職は、加計学園問題で注目された安倍首相の腹心、萩生田光一・前官房副長官(現自民党幹事長代行)だ。すでに左派系の日刊ゲンダイは、小池氏が「落選させたい4人組」の一人として萩生田氏を名指しして煽り立てており、前出の選挙ドットコムの記事では小池新党の候補者のほうが上回ると分析しているが、八王子という選挙区の特質をじっくりと吟味した報道であるかというと、いささか疑問も残る。
というのも、実は私はかつて八王子に記者時代住んでいたのだ。2002年から3年間、読売新聞の八王子支局に勤務し、この地で衆院選を2度、都議選を1度経験した。当時は、萩生田氏が1〜2期目の若手の頃で、相手候補の民主党、阿久津幸彦氏(のちに民主党政権で菅直人首相の補佐官)ともども定期的に取材していた。ちなみに後年、おときた都議とともに小池氏の都知事選を支えることになる両角穰都議も当時は若手市議で市政のことでしばしば取材した。
そして、この地は創価大学があることからも分かるように学会の“金城湯池”。選挙取材では、学会関係者との情報交換も不可欠だった。八王子を離れて10年以上経ち、生の情報には疎くなったものの、「元市民」としては八王子の選挙を論じた記事にはついついうるさくなってしまう(笑)。
意外に“スイングステート”な八王子だが、図抜けた創価学会のプレゼンス
都心の人からすると、八王子といえば高尾山に代表される自然が豊かで地方色が強く、いかにも自民党が選挙に強そうなイメージがある。確かに市議選や都議選では自民系は伝統的に強固な地盤であるのだが、小選挙区制導入後の6度の選挙で民主党候補が2度勝ち、2003年には比例復活も果たしている。特に2005年から12年にかけての3度の選挙では、萩生田氏と阿久津氏の当選が入れ替わっており、2005年以降の都議選の当選圏内に入る政党も、自民、民主、みんなの党、都民ファーストの会など顔ぶれはよく変わる。アメリカ大統領選風にいえば“スイングステート”(接戦州)の傾向があるのだ。
というのも、八王子は多摩地区最大の人口57万を擁し、いかにも保守地盤という趣の農業地帯や商店街もあれば、多摩市や町田市に隣接した南部の多摩ニュータウンは新住民が多い。当時、萩生田氏に取材したとき「場所によって演説の内容を変えている」と苦心していたのを思い出すが、地域性も多様な分、北部では地域経済振興に関心があるが、南部は待機児童対策を訴える子育て世帯が多いといった具合に政策ニーズも変わる。それでいて都内の区市町村で2番目に広大なエリアとあって、衆院選や都議選クラスの選挙を戦う場所としては「勝利の方程式」を編み出しにくい地域ともいえる。
しかし、その中でも公明党の存在感は図抜けている。都議選では東村邦浩氏(現都議会公明党幹事長)が2005年以降の4度の選挙で3度トップ当選。この夏の選挙も都ファが2人擁立したとはいえ、首位の座は譲らなかった。衆院比例選(2014年)の党派別得票数では3番目の42,396票で、2位の民主党に2400票差に迫る勢い。ちなみに世田谷区(東京6区)の比例公明票は、同じ選挙で自民、民主、維新に次ぐ4番手であったことからも分かるように、公明・学会の強さがほかより際立つのが八王子の特徴なのだ(多摩地区はもともと公明票は手堅い)。当然、市内で4万票程度を擁する彼らの動向が総選挙の結果に影響してくる。
都議選の「遺恨」があるようには見えないが……
都議選に際し、自民と公明が袂をわかった経緯から総選挙での連携をスムーズに回復できるか懸念する向きは確かにある。しかし、八王子の都議選自体は定数が5あり、伝統的に自民も公明もそれぞれ自分たちの選挙戦を展開してきたので、こうした外形的事実からは、八王子の選挙区内においては「遺恨」を根強く残すようには見えないが、どうだろうか。
いまのところ、次期総選挙は郵政選挙のような熱狂的な雰囲気になりそうには見えない。一部で指摘されるように、投票率が50%台前半程度に収まると、萩生田氏が加計学園問題でのイメージ悪化の懸念はあっても、市議の持ち票(5万)+学会票(4万)+αで、当選した前回、前々回に獲得した12万票は視野に入る。
民進党は阿久津氏に代わり新人の弁護士、高橋斉久氏が挑む形になるが、知名度不足はぬぐえず、同党の都議選候補者も定数5の選挙で7位に沈んだことを考えても勢いを欠く。共産党は新人の女性弁護士、飯田美弥子氏を擁立する予定だが、固定支持層の3万票程度に加え、せいぜい民進票を浸食する程度だろう。
順風なようで小池新党を待ち受ける数々のハードル
小池新党の候補者がここに参戦してきた場合、どのような展開を見せるだろうか。都議選で都ファは、現職の両角氏に続き、政治経験がない無名新人の商社マン(滝田泰彦氏)がポット出で3位当選した。過去の“スイングステート”だった歴史も考えると、知名度がないからといって小池氏の影響力を侮れないのは確か。ただ、それも投票率が52%(都内全域では51%)と前回比5%アップしての勢いがあったことだ。
都ファが“ジャイアントキリング”を起こすとすれば、民主党がバカ勝ちした2009年の時のように投票率が60%台後半まで跳ね上がり、なおかつ3〜5万票程度は見込まれる民進・高橋氏に集まるリベラル票も破壊的に横取りせねばならない。裏を返せば投票率が上がらず、民進党候補が中途半端に票を取ると小池新党にとっては「邪魔」でしかないのだ。
実際、最初の小選挙区選挙である1996年のとき、東京24区は、非共産の野党は新進と民主の候補に票が割れ、自民候補が勝利した先例もある。学会の牙城という特殊性も鑑みると、小池新党はよほどの知名度または話題性のある「刺客」を立てないと崩せないように見受けるが、これまでの「常識」を破壊するようなことが起きるのだろうか。どちらにせよ、公明党の動向がカギを握ることには間違いない。
そして、この八王子での自公の動きは、都内全体の小池新党との戦いを占う意味でも注目していきたいところだ。