仮に北朝鮮が限定的核保有国になった場合には、テロリスト・紛争国家等への核拡散、米国覇権の後退による世界秩序の流動化が懸念される。東アジアに於ける米国覇権の後退は、即ち中国の覇権拡大を意味する。また日韓を核武装に向かわせ、その後または過程で南北統一の所謂「朝鮮連邦共和国」が出現し、中国と同盟を結び日米と対峙する方向に進む可能性が高いだろう。
米朝対立と核容認
北朝鮮のミサイル発射実験、核実験が続き、米国本土へ届くICBMの完成が加速している。
米国のトランプ大統領は、9月19日に国連で演説し、米国と同盟国が危険に晒され、それを避ける必要がある場合には、北朝鮮を「完全に破壊する」とし牽制した。
これに対し、北朝鮮の金正恩委員長は21日、「過去最高の超強硬な措置の断行を慎重に検討する」との声明を発表し、続いて李容浩(リ・ヨンホ)外相が、太平洋上で水爆実験を行う事を示唆し、トランプ大統領に応酬した。
北朝鮮の核、弾道ミサイル開発が進むにつれ、米国に届くICBM開発の廃棄を条件にした北朝鮮の限定的核保有容認論が日米両国内その他で勢いを増してきた。橋下徹元大阪市長は予てから、核保有国である中露に囲まれている日本としては、ここに新たに北朝鮮の核が加わっても大きな安全保障上の変化はなく、北朝鮮を限定的核保有国として認めてしまった方がよいと唱えてきた。
米国でも昨今、オバマ政権時代の国連大使だったスーザン・ライス氏等から、同様に北朝鮮を限定的核保有国として認めた上で、国際的核管理を行うべきという意見が表明され始めた。
仮に北朝鮮が限定的核保有国になった場合には、テロリストや、紛争国家等への核拡散、米国覇権の後退による世界秩序の流動化が懸念される。
スーザン・ライス氏等は、北朝鮮の米国に届くICBMの脅威が無くなったとしても、依然として日韓に対する米国の核の傘は続き、世界秩序と東アジアのパワーバランスは保たれると考えているのだろう。しかし、米国の権威失墜、それと合わせ米国の東アジアへの関心の希薄化が進むと見るのが自然ではないか。
また、イラン等の中東国家も、核開発の権利を表立って主張し始めるだろう。
加えて、NPT(核不拡散条約)から脱退し、核保有国となったインド、パキスタンは、IAEA(国際原子力機関)の定期的な査察を受け入れているが、北朝鮮が果たしてこれを受け入れるのか、受け入れたとしても隠蔽せずに全て査察させるのかには大きな疑問が残る。
南北統一と中国
東アジアに於ける米国覇権の後退は、即ち中国の覇権拡大を意味する。
何れかの時点で、米国は韓国から駐留米軍を撤退させるのではないか。
また北朝鮮の限定的核容認は、日韓を核武装に向かわせる。
それは、日韓共に米国の核の国内持ち込み、核ボタンのシェア(所謂レンタル核)、自国の核武装と段階を踏んで行くだろう。
そして、その後または過程で紆余曲折の末、例えば「南北の究極の安全保障は朝鮮半島の統一だ!」とか「北朝鮮の核をそのまま貰えば、コストは不要だ。」というような民族ナショナリズムが巻き起こり、実際にそれにより南北統一の「朝鮮連邦共和国」が出現する可能性は可也高いのではないか。
もしそうなる場合には、多分に日本が共通の敵とされ、膨大になると言われる南北統一に伴うコストの請求書は、戦後賠償のやり直しと称して日本に突き付けられるだろう。
なお余談となるが、朝鮮民族の気質は、半島という地勢的な条件の下、歴史上常に中国の圧迫と介入の影響を強く受けて形成されたと推察される。これが根深い被害者意識と時に噴出する激情となって表れているのではないか。
また、韓国国民の朴槿恵前大統領への激しい糾弾は、THAADミサイルの配備問題で米中の板挟みとなりヒステリー状態となった事が背景にあると思われる。
話を元に戻すと、統一朝鮮はパワーバランス上、中国と同盟を結び日米と対峙する方向に進む可能性が高いだろう。そして、東アジアへ関心を失った米国は、(もし日本に関心が残っていたとすれば)対中国の前線を日本に置くこととなる。
究極の選択
以上が、筆者が北朝鮮の限定的核容認後の東アジアについてイマジネーションを駆使して考えてみた姿だ。
今回の北朝鮮危機解決で考えられる主な3つのシナリオは、これまで述べた北朝鮮の限定的核容認と米朝軍事衝突、および金正恩の亡命だ。
金正恩委員長の亡命は、ロシアに制裁解除と引き換えに金正恩を引き受けて貰うシナリオが、米マスコミと議会等による執拗なロシア叩きによって、ほぼ消えた。
だが、金正恩の留学先であったスイスのロイトハルト大統領は、米朝の仲介に積極的であるので、今後国際社会は北朝鮮への圧力を強めると同時に、実現可能性は僅かしか無いものの金正恩委員長の最後の逃げ道として水面下でスイス亡命のシナリオを描いておく必要がある。
日本と韓国が報復攻撃を受ける可能性が高い米朝軍事衝突については、国家、自治体、民間、家庭、個人の各レベルで備えを固めると同時に、仮にもし起こるならトランプ大統領とマティス国防長官には北朝鮮の報復手段を完全破壊する作戦遂行を望みたい。また、戦後に朝鮮半島をどうするかのデザインも必要となる。
北朝鮮の限定的核容認と米朝軍事衝突の究極の選択は、以上を総合的に勘案して判断されるべきだ。
タイムリミットは迫りつつあるが、ホワイトハウス内、米中間、あるいは米中露で、それらがどこまで詰められているかは窺い知れぬ。であれば、その外側からは尚の事、考察を重ね活発な発信をして行く必要があるだろう。
佐藤 鴻全 政治外交ウォッチャー、ブロガー、会社員
ブログ:佐藤総研