子供連れ去り被害者への一点の光

山本 ひろこ

虚偽DVによる子供の連れ去り事件があることをご存知でしょうか。昨年1年間に警察に寄せられたドメスティックバイオレンス(DV)の相談件数は69,908件。近年は、毎年増加しています。

それゆえに、全国各地にDV被害から母子を守るための保護や、児童虐待から子供を守るための保護など、被害に苦しむ人や危険から逃げてきた人を一時的に避難させるという保護施設(いわゆる、シェルター)がある。子供連れ去り事件の中には、夫婦の一方をDV夫・児童虐待妻に仕立てることにより被害者を演じ、この行政による「保護」という隠れ蓑を利用するケースがあります。

NHKハートネットTVのカキコミ版など、子供連れ去り関連の相談はネット上でも多く見られます。

私の住む東京都目黒区でも、「緊急一時保護施策」として、DV被害を受けているとか、着の身着のまま飛び出してきた方など、「原則として区内在住者で、緊急の保護を必要とする母子(女性)」を保護施設にて1週間程度保護する、という施策があります。昨年度の実績として、8世帯16人を保護しています。

そして今月(2017年9月)、目黒区決算特別委員会にて、この子供連れ去り問題への小さな救済策を提言し、目黒区では実施に向けて動き出しました。議会での提言をベースにアゴラの読者の皆様に向けにリライトしてご紹介したいと思います。

一方的な連れ去り、“不公平な保護”の実態

緊急保護施策では、女性側だけの要望により一時保護が開始され、その後女性相談センターなどの長期的な保護施設に送られるため、本当にDVがあったのかもわからないまま、長期的に父親と子供が引き離されてしまうことがあります。

例えば、ある日突然母親が子供を連れ去った場合に、父親は捜索願を出し、保護施設に入っていないかと役所に尋ねに行きます。しかし、現状では、名前の照会どころか、現在施設で保護している人がいるかどうかも含め、『一切の情報をお伝えできない』ということでシャットアウトされてしまいます。行政で保護されていれば、捜索もされません。そしてその後、裁判で親権を争ったとしても、直近でより長く一緒に住んでいる母親側が圧倒的に有利になってしまいます。

つまり、役所に駆け込まれ、保護された時点から一切の連絡手段がなくなってしまうのです。これは、本当に深刻なDVがあるケースには必要な措置ですが、単なる夫婦の不和や、母親の勝手で子供を連れ去られてしまったケースでは、駆け込んだ側に偏重した不公平な保護となってしまう。そして、こういった一方的な子供の連れ去りに被害を受けている方は、実は多く居ます。

かといって、役所には捜査権限もなければ、裁判機能もないので、DV有無の判断はできない。その上で、駆け込んできた方を、危険から身を守るための応急措置として一時保護を提供しています。事件に発展する可能性が否定できないかぎり、一切の情報を提供できないというのは、仕組み上仕方のないところであり、日本全国の役所で同様の対応がなされています。

仕方ないとは言えども、あまりにも公平公正さに欠けるのではないでしょうか。一方的な子供連れ去りケースだった場合、連れ去られてしまった側はDV加害者とは真逆の子供連れ去り被害者となる。被害者であるにも関わらず、子供と引き離され、一切の連絡手段を断たれ、結果として親権交渉時にも不利になる・・・このなだれ落ちるような展開により、失意の闇に突き落とされるという悲劇が、実際に起こっているのです。被害者救済のための保護措置が、逆に被害者を生み出してしまっている。

被害者を逆に生み出す悲劇をなくすには

この状況を解消するための第一歩を踏み出せないでしょうか。
目黒区の保護施設内には、目につくところに掲示板があります。保護収容されている人を探していて、何とか連絡を取りたいという方が役所の窓口を訪ねてきた場合に、「お探しの人が居るかも、メッセージを読むかもわからないけれども、施設内の掲示板に伝言メッセージを一定期間掲示することならできます」という対応をしてはどうでしょうか。

一案ですが、掲示にもかぎりがあるので、役所で用意した申請用紙に記載をしてもらい、1ヶ月等のある程度幅をもたせた期間掲示する。その際には、同一人物が何度も大量に掲示依頼しないような制限や、メッセージ内容が公序良俗に反したり、個人のプライバシーを公表するような内容であったり、脅迫的な内容を含む場合などについては掲示できないというような、ルールも明確にしておく必要があります。

これであれば、見たくない人は見なければ良いし、逃げてきたけれども相手のことが気になっている人は見れば良い、ということで、受け手にも選択肢があり、役所としても、探し人が施設に入居中かどうか関係なく掲示をするので、一切の情報提供をしなくて済みます。

また、子供連れ去りの被害者としても、現状は一切の連絡手段がない真っ暗闇の中で、もちろん相手が確実に読むという保証はないけれども、連絡手段の1つにはなり得ます。ゼロから0.1、最初の一歩という、一点の光にはなり得ます。

さらに、掲示依頼書は受付時にコピーを取って受領印を押した控えを渡すようにすれば、その後の親権交渉時に、当初から探しており、連絡を取ろうと努力していたということの、客観的なエビデンスの1つにもなり得ます。

完璧な施策などありません。

DV被害者を守るための施策が、却って子供の連れ去りに使われてしまい、役所が隠れ蓑を提供してしまう、という施策の溝があり、その溝に落ちてしまう被害者が少なからず居るのであれば、公正公平な行政として、溝を埋めるためのこういった補助施策が必要ではないでしょうか。

もちろん、目黒区の取り組みだけでは足りません。この小さな一歩が、より多くの読者に伝わり、共感してくれた方々が、全国1700余の自治体各地で同様の要望を挙げてくれることで、この救済の輪が広がり、やがて日本全国にこの小さな光が灯っていくよう、心から願います。

山本ひろこ 目黒区議会議員(日本維新の会)
1976年生まれ、埼玉大学卒業後、東洋大学大学院にて公民連携学を学ぶ。外資系企業でITエンジニアとして勤務しながら、3児をもうけるが、保育園入所率ワースト1の目黒区にて保活に苦労。行政のありかたに疑問を抱き、政治の世界へ。2015年、目黒区議選に初当選(初出馬ではトップ)。