朝鮮半島情勢が極度に緊張してきたので、人々が「いつ戦争になるだろうか」と固唾を呑み始めた。しかし、「実はもう始まっている」という見方はできないだろうか。
先日9月11日、北朝鮮に対する国連安保理の追加制裁決議が可決した。北朝鮮が9月3日に強行した水爆実験に対するものだから、異例のスピードだ。
9月11日といえば、アメリカにとって「NY同時多発テロ」の日である。
今回の制裁では、北朝鮮への原油や石油製品の供給は、禁止ではなく「制限」へと修正された。中ロ側の意も汲み、全会一致の採択を優先したためだ。
これに対して、田原総一朗氏のように「骨抜きになった」という意見もある。
しかし、私は逆に、この制裁決議を見て、「事実上の開戦」だと感じた。
まず、8月5日の安保理決議により、国際社会は北朝鮮の石炭・鉄鉱石・海産物の輸出を断ち、収入の三分の一を断った。そして、今回の決議で、繊維輸出を禁止し、石油の輸入と海外への「出稼ぎ労働」に大きな制限をかけた。
この二つ合わせて、年間約30億ドルと目される北朝鮮の輸出収入の9割を断った。このような措置はまた北朝鮮の雇用をごっそりと奪うものでもある。
つまり、日米は、石油の全面禁輸を見送った代わりに、その妥協をエサとして、このような厳しい経済制裁の合意を中ロから取り付けたわけだ。
しかも、上は加盟国に法的拘束力を持つ「安保理決議」だが、米国はこれとは別個に「独自制裁」も進めている。また、中国の銀行も対北金融制裁を履行している。
北朝鮮が月に30万円の収入を得ていた労働者とするなら、突然、それが3万円に激減するわけだ。だから、ただ時間が過ぎていくだけでジリジリと追い込まれていく。
こういうのを昔の言葉で「兵糧攻め」と呼ぶのではないだろうか。しかも、秀吉の「小田原攻め」と違って、日米側には何の出血もないのだから、実にうまいやり方だ。
アメリカはほとんど1か月の間にこれだけの包囲体制を整えた。果たして田原総一朗氏の言うように、骨抜きだ、効果がない、というのは本当だろうか?
これは金正恩に「死に方」を選べと突きつけるに等しい
さて、北朝鮮がこの経済制裁(というより今やほとんど経済封鎖の域)を解除したければ、核廃絶を約束し、実行していかなければならない。
しかし、いくら金正恩が独裁者でも、これは政治的に不可能ではないだろうか。
なにしろ、非核化を証明するためには、国中のあらゆる秘密の施設や軍事機密に査察官が自由に立ち入り調査できるよう、取り計らう必要がある。また、核・ミサイル開発は故・金日成が始め、故・金正日時代に基礎を固めた国家プロジェクトだ。金正恩でも唯一覆せないのが「先代の威光」である。また非核化するとしても、日米韓から莫大の見返りを得るのではなければ、そもそも取引にならない。しかし、これまでの核・ミサイル開発の労力やコストに見合うだけの対価を気前よく支払ってくれる国などない。
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しかも、金正恩と北朝鮮指導部の立場からすると、リビアのカダフィの先例があるため、そうやって国を明け渡しても、身の安全が保障されるわけではない。
つまり、金正恩の視点でいえば、次のようなことが言えるのではないだろうか。
仮にこのまま何もしなければ、国内経済が確実にジリ貧で破綻する。
他方で、非核化という“全面降伏”をしたところで、それに見合うだけの対価はもらえないし、カダフィのように惨めな死を迎えるかもしれない。
つまり、座して死ぬか、白旗を掲げて死ぬか・・・である。
むろん、もう一つの選択もある。「戦って死ぬか」である。
要するに、9月11日の安保理決議とは、「この三つのうち、どの死に方がいいか選べ」と、金正恩に「究極の選択」を突きつけたものではなかったか。
案の定、今回の決議を受けて、北朝鮮も発狂している。
いつも発狂しているので分かりにくいが、「日本列島を核爆弾で海に沈めてやる」とか、「米国人を狂犬のように棒で打ち殺す」など、明らかに声明が“戦闘モード”化している。
その後、トランプ政権も安倍総理も「対話は無意味」という内容を言い始めた。
つまり、9月11日をもって外交は終わったのであり、北朝鮮との「広義の戦争」がすでに始まってしまったというシビアな認識でもいいのではないだろうか。
あとは「実戦」がいつ来るか、という時間の問題である。
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(フリーランスライター・山田高明 個人サイト「フリー座」)