選挙を「2倍」楽しく見る方法

堀江 和博

選挙には見るべきポイントがある

ついに始まる解散・総選挙。与党か、野党か、はたまた新党か、選挙戦の行方が大いに気になるところである。ただ、一度選挙が告示されれば、マスメディアは放送法・公選法の兼ね合いから中立的報道となる。選挙期間中には情勢分析が新聞に掲載されるが、詳しい情勢を知る機会は総じて減少し、12日間の選挙戦の中で移り変わる形勢をタイムリーに把握することは、実際のところ難しい。

しかし、選挙には「情勢を判断できるポイント」というものが存在している。もちろん、投票箱が閉められるまで結果は分からないが、選挙戦全体の形勢から、陣営がどこを重点としているのか、どの層の票が足りていないのか、などの分析は十分可能なのだ。今回は、先行研究を踏まえつつ、より汎用性の高い選挙情勢分析について触れたいと思う。

その1.選挙カーの頻度

名前をひたすら連呼する「選挙カー」はしばしば有権者に嫌われがちであるが、得票アップに結び付くことが研究で分かっている。関西学院大学・三浦麻子教授の研究によると、ある地方都市の市長選に密着し、選挙カーに同乗GPSで位置情報を収集、その後アンケートを実施、効果を測定したところ、選挙カーが自宅近くを通った人はその候補者に投票する傾向が強いことが分かったという。興味が無くても、繰り返し接すると次第に好きなる「単純接触効果」の結果とされている。

選挙活動の中心となるのは「選挙カー」の運行である。選挙地盤が弱い地域、重点的に集票をしたい地域、人が多く集まる地域などには、必然的に選挙カーを走らせることになる。もし特定の地域で選挙カーを何度も見かけることがあれば、「うるさいなぁ」という気持ちは少し脇において「この地区は重要なのかもしれない」と分析してみて欲しい。

その2.大物弁士の登場回数

総選挙となると、政党本部は本気である。日本全国の選挙区に対して戦略的に資源を投入する。代表的な例としては選挙資金配分、各種団体への応援要請、そして「大物弁士の派遣」である。「安倍首相が集会に来る」「小泉進次郎が街頭演説する」など、大物弁士の応援演説に遭遇した経験を持つ人も多いのではないだろうか。

神戸大学大学院・藤村直史准教授は、政党執行部が「政党投票に依存している候補者や当落線上にある候補者に対して、より頻繁に総理大臣を訪問させていること」を、統計分析を用いて明らかにしている。総理大臣を始めとする大物弁士は、有権者の動員やメディアでの報道も大きい。ゆえに、激戦区は大物弁士による選挙演説合戦となるであろう。ちなみに、今回の選挙で該当するのは、間違いなく「東京」である。

その3.新聞各社の情勢報道

選挙期間中には新聞各社が情勢報道を行う。「A候補が優勢」だとか「B候補が追い上げている」とかそのような婉曲表現で報道がなされるのであるが、実際には、具体的な情勢数値がはじき出された上で用いられている。以下の表を見てほしい。

各社によって表現が異なる場合もあるが、おおよそこの通りである。ちなみに、ポイントはパーセントとおおよそ同義だと理解していただければ分かりやすい。近年の電話調査や出口調査などの精度は非常に高いもので、現場取材を踏まえて、いかに早く当確を打つかどうか各社が競い合っている。終盤で上位2段であれば、ほぼ当確と言えるだろう。逆に下位3段は、情勢が逆転する可能性があり、最後まで激戦が予想される。

また、情勢報道は投票行動にも大きな影響を与える(「アナウンスメント効果」という)。優勢が報じられると、支持者は安心し、投票に行かないかもしれないし、逆に支持候補者の苦戦が伝えられると、雨でも忙しくても絶対に投票に行こうとするかもしれない。さらに、報道は運動員の士気にも影響をもたらす。優勢が伝えられると陣営の士気が緩み、苦戦が伝えられると陣営が引き締まることもある。いずれにしても、情勢報道は選挙の潮目となりうる。

最後に、ネット・SNS

以上3点は、いずれも日本全国の全選挙区において汎用性の高い観点といえる。しかしながら、近年、首都圏を中心とした無党派層の多い選挙区では、ネット・SNSでの影響力が年々増している。まして東京においては、小池都知事が誕生した都知事選や都民ファースト躍進となった東京都議選など、従来の選挙活動とネット・SNSとを連動させ効果的に選挙戦を展開した例が多く見て取れる。今回の総選挙でも東京選挙区は激戦が予想されることからも、「ネット・SNS」が効果的に運用されているかどうかも、重要な観点となるだろう。

堀江 和博(ほりえ かずひろ)
滋賀県日野町議会議員 1984年生まれ。滋賀県出身。京都大学大学院公共政策教育部公共政策専攻。民間企業・議員秘書を経て、日野町議会議員(現職)。多くの国政・地方選挙に関わるとともに、大学院にて政治行政・選挙制度に関する研究を行っている。