NHK:サウジアラビア 女性の車の運転 解禁へ

岩瀬 昇

NHKより:編集部

NHKニュースウェブが掲題を報じている(2017年9月27日7:35)。
サウジは世界で唯一、女性が車の運転をすることを禁止している国なのだが、来年6月までには女性にも運転免許証が交付されることになるというニュースだ。

これは、単に車の運転にとどまらず、実は女性の人権全般に関わる問題である。
背景を理解してもらうために、エピソードを一つ紹介しておこう。

筆者は1996年4月から98年3月までの2年間、イラン・テヘランで勤務した経験がある。イランでも女性は「男性の半分の価値」しかないとされ、社会生活のさまざまなところに影響をもたらしていた。

たとえば、弊ブログ『のびーパパの へぇーそうだったのか 薀蓄話 #20 応援席は男ばかり』(2013年8月29日)で紹介したように、短パン半袖シャツでプレーする男性バレーボールの試合の応援も、イラン人女性はすることができない。家族以外の異性の肌を見てはいけないからだ。

あるいは女性スタッフ一人での宿泊を要する国内業務出張はできなかった。イスラムの教義にしたがい、父親か夫、あるいは兄、弟などの男性家族などの「保護者」が一緒でなければ、女性が一人でホテルに泊まることができないからだ。

さて、関連ニュースをFinancial Times “Saudi King clears the way for women to drive” (around 6:00am on 27/Sept/2017) や Foreign Policy “Saudi women can drive, but it’s not a feminist paradise quite yet” (Sep/27/2017 4:52pm) で読み、日本ではほとんど報じられていない重要な事実に気がついた。労働人口の20%を占める女性の多くが、現在、ウーバーなどの配車アプリを使って通勤している、という事実だ。

また『中東協力センターニュース 2011年6/7月号』に、榊原櫻氏(三井物産戦略研究所、日本エネルギー経済研究所)による「サウジアラビアの女性運転容認問題」と題する論考が掲載されているが、これによると、(当時)200万人の女性が通勤に使用するため、75万人の運転手を雇用している、のだそうだ。

つまり女性たちは通勤時に、「保護者」が運転してくれない場合には、外国人運転手に送迎してもらっている、というのが現実なのだ。

これらの現実の背後にあるのは、非モスレムの外国人運転手は、自分たちと同じ人間ではないので、狭い車内に二人きりで家族以外の男性と一緒にいる、という反イスラム的行為にはならない、という「解釈」である。
ウォール・ストリート・ジャーナルの編集長を務めたKaren Elliott Houseの “On Saudi Arabia” (2012)には、外国人運転手は “sexless extension of the car” (無性の車の延長部分)でしかない、と記載されている。

つまり「75万人の運転手」も、配車アプリでやってくるタクシーの運転手も、すべて自分たちと同じ人間ではない、外国人運転手なのだ。女性が自分で運転できるようになると、多くの外国人運転手が失業することになるのだろうか。

また、Foreign Policy(FP)によると、New York Timesは記事の中で、運転をしている女性との接触方法を警察官に教育する必要がある、と指摘しているそうだ。

さらに、1990年代からこれまで、女性にも自動車運転を認めるべきだと運動してきた女性たちは、すべて外国で車の運転を覚え、外国で免許を取得した、いわば富裕層の人たちなのだが、これからどうやって国内の女性たちに運転を覚えさせるのか、という問題もある、と指摘されている。

このように、社会生活のあちらこちらに影響がでるのは間違いがないだろう。

筆者が最も興味を持ったのは、FPが紹介している在米サウジ大使Prince Khalid bin Salmanの次の発言だ。

「女性運転問題は宗教的あるいは文化的な課題ではなかった。これは社会的課題(societal issue)なのだ。今日のサウジは若い、元気のある社会であり、ようやくその時が来た」

一方、FT記事には、今回の国王勅令の中に、最高宗教組織であるSenior Ulema Councilの大多数が「問題がない」と見ている、との記載がある、と書かれている。

本件は、宗教上は問題ではない、ということで事態が収拾されることになるのだろう。だが、女性の人権拡大は、サウジ国民一般の人権拡大希望を刺激することになるのではないだろうか。

ますますサウジの動向から目が離せないなぁ。


編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2017年9月27日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。