石油価格はどうなるのか?

シェルのCEOベン・バン・バーデンは今年の7月末、「低価格が永遠に続くことに備えよ」と語った(FT ”Shell prepares for ‘lower longer’ oil prices” 27 July 2017)。低価格が続くと予測しているのではなく、そのマインドセットを持つべきだ、ということのようだ。

このニュースは、97年末の「ジャカルタの悲劇」と筆者が呼んでいるOPECの読み違いによる増産決議がもたらした価格の大幅下落の後、当時のBP社長ジョン・ブラウンが、200人の幹部社員にメールを送り「石油価格10ドル前提でBPは何をなすべきか?」と問いかけたエピソードを思い出させた。

FTに定期的に寄稿しているニック・バトラーは9月24日、石油価格は「45-60ドルが天井となる」(FT “Plentiful oil will sustain age of hydrocarbons” 24 September 2017)と指摘した。石油需要は20~30年以内に約1億バレル/日(BD)でピークを迎え、しばらく横ばいで推移するだろうが価格が高騰することはない、として、彼なりの判断根拠を説明してくれている。

先週シンガポールで開催されたアジア最大の石油コンフェランスでは、トレーダーや生産者などの参加者の3分の2が、価格は当面、現状の50-60ドルで推移するだろう、と回答したそうだ(FT ”Oil industry loses fear factor but finds little to cheer” 29 September 2017)。弱気派は、米シェールの増産能力に注目している。一方、有力オイルトレーダーであるTrafiguraのエコノミストが次のように語っており、これが強気派の代表的意見だろう。

・2014年からの価格の大幅下落により、1兆ドルの資本投資が失われており、向こう2~3年の間に相当量の供給不足(sizeable shortage)が発生する。

・2019年末までに需要量が供給量を200~400万BD上回るであろう

・シェールの増産は急激にはこの需給ギャップを埋められない。

・石油の ‘lower for longer’ の時代は終わりに近づいている。

そして昨10月2日、FTのエド・クルークスが “Lower for longer oil prices vs higher, sooner” と題して、短期および中長期の強気要因と弱気要因を報じている。

「リスクを嫌う生産業者にはシェルCEOの発言は意味があることだし、一方消費者は ‘higher, sooner’ もありうることと考えるべきだろう」というのがエドなりの結論なのだろうか。

果たして石油価格は今後、どうなるのだろうか?

筆者は『原油暴落の謎を解く』(文春新書、2016年6月)で開陳したように、価格は市場が、より正確には市場参加者が決めている、と考えている。市場参加者たちは、果たしてどうなると見ているのだろうか?

最近の先物取引の動きには二つ、大きな変化がみられる。これが何を意味するのか、考えているのだが、姿が見えてこない。読者の皆さんも一緒に考えていただきたいので紹介しておこう。

一つは、先物カーブがコンタンゴ(先高)からバクワデーション(先安)に移動しつつある、ということだ。WTIはまだゆったり、くねくね、という感じだが、ブレントは2年ほど先まではっきりとしたバクワデーションになっている。

もう一つは、NYMEX WTIの未決済残高(Open Interest)が積み上がっていることだ。
昨年9月のアルジェ合意(方針決議のようなもの)の後、増加し始め、10月7日にそれまでの記録を破る19億4,000万バレルとなったが、12月の協調減産合意直後には21億バレル(12月6日)となった。その後も何度か、新記録をつけたが、今年5月に23億バレルを越えてからはしばらく増えていなかった。ところが9月12日に23億4,200万バレルの新記録を出し、さらに15日24億バレル、ついに昨日10月2日には24億6,200万バレルの過去最高記録となっている。

他の商品で経験が豊富な方、この二つが何を意味するのか、読み解いていただけませんか?


編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2017年10月3日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。