【映画評】エルネスト

南米・ボリビア出身の日系二世・フレディ前村は、医者を志してキューバのハバナ大学に留学する。だが1962年、キューバ危機を迎え、大学内も混乱し、学生たちは民兵として志願するか、祖国へ帰るかの選択を迫られることに。そんな時フレディは、キューバ革命の英雄チェ・ゲバラと出会い、そのカリスマ性に魅了され深い理念に感銘を受ける。やがてゲバラの部隊に入隊したフレディは、ゲバラと同じエルネストを戦士ネームとして授けられた。そして彼らは、ボリビアの軍事政権を倒す戦いに身を投じていく…。

チェ・ゲバラと行動を共にした日系二世のフレディ前村ウルタードを題材にしたドラマ「エルネスト」。チェ・ゲバラのことは当然知っていたが、彼と行動を共にしたフレディ前村の存在を、この映画で初めて知った。母国ボリビアが政情不安定なため、キューバで医学を学んだこの青年は、とても誠実で、真面目で、理想と正義に身を捧げたロマンチストだ。ゲバラが目指した革命は、フレディのような、名もない戦士たちの情熱に支えられていたのだと改めて知る。そしてそこには当然、多くの犠牲が伴うことになる。

チェ・ゲバラが重要な役割を果たすが、物語の主役はあくまでもフレディである。彼は、激動の時代の中でも、友人を作り、淡い恋をし、勉学に励んでいたのだが、そこにチェ・ゲバラやカストロといった巨星がふいに現れて、人生を決定付けていくあたり、人間の運命の不思議を感じてしまう。少し残念なのは、実在の人物で、革命に準じた日系二世の英雄というフレディの出自からだろうか、作品があまりにも生真面目な作りで、見ていて少々面白みに欠けること。前作「団地」のユルさや笑いのセンスが素晴らしかっただけに、どうしても不満を感じてしまうのだ。とはいえ、全編スペイン語のせりふで静かな熱演を見せるオダギリジョーは素晴らしいし、チェ・ゲバラが日本の広島の原爆慰霊碑に献花した秘話も、とても効果的に描かれていて心に残る。アメリカに依存し続ける現代の日本には、理想に生きたフレディの存在そのものが「君たちはそれでいいのか?」との問いかけに思えた。
【65点】
(原題「エルネスト」)
(日本・キューバ/阪本順治監督/オダギリジョー、永山絢斗、ホワン・ミゲル・バレロ・アコスタ、他)
(歴史秘話度:★★★★☆)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2017年10月6日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。