アラムコIPO:日本も買うのか?

岩瀬 昇

アラムコ年次レビュー2016より(編集部)

サウジアラムコが海外上場(IPO)を棚上げし、相対取引(private deal)で個別に販売することも検討している、とのニュースが先週末に流れた。邦字紙も報じているが、FTのエネルギー・コメンテーターであるニック・バトラーのFTブログ ”The implications of shelving Aramco IPO” (14 Oct. 2017)が背景等の分析についてはよく纏まっている。

その内容はご紹介しようと思っていたら、今朝、ロイターがロンドン・ドバイ発で “Exclusive: China offers to buy 5 percent of Saudi Aramco directly – sources” (16 Oct. 2017)というニュースを報じているのを発見した。

ロイター電の中に「日本と韓国の国家基金も興味を示している」という記載があった。本当なら嬉しい話だが、購入価格を含め、情報開示をしない前提では、民主主義国家である日本には無理な話だろうな。

ロイター電によると、中国はペトロチャイナ、シノペックの国有石油会社が二、三週間前に書状を送り、相対取引で5%、あるいはそれ以上の株式購入に興味を示した、両社はコメントを断った(declined)、中国は国家基金や銀行を含むコンソーシアムで購入を検討している、そうだ。日本や韓国以外にもロシアの国家基金も購入を検討している、とも伝えている。

さらに興味深いのは、中国が雲南に建設中の23万BD能力(2018年7月操業開始予定)の製油所の権益購入をサウジが検討しているとのニュースだ。雲南には、ミヤンマーからの天然ガスパイプラインが2013年から操業しており、並行して建設していた原油パイプラインも今年の4月から操業を開始している(日経「中国、原油輸入を多様に ミヤンマー結ぶ陸路を確保」2017年4月13日)。

中国から見れば、サウジアラムコの株式購入はエネルギー安全保障上、重要な意味を持つのは間違いがない。

さて、ニック・バトラーのブログだが、要点は次のとおりだ。

・「棚上げ」には「簡単に、手早く、資金調達ができる」との考えが上手く行かなかった、だけではなく、重層的な理由がある。

・海外IPOは情報開示が要求される。たとえば、2.600億バレルといわれる埋蔵量が本当にあるのか、第三者による公正な評価が必要。5%以下の少数株主も知る権利がある。だが「透明性(Transparency)」は、そもそもサウジの「統治スタイル」とは合致しない。

・ムハンマド皇太子は、アラムコの企業価値は2兆ドル、5%のIPOで1,000億ドルの資金調達ができる、と考えていたが、市場の評価は半分以下。相対取引なら、実際の販売価格を公開しないで済む。

・もっとも重要なのは政治的な理由だ。オバマの時代から、自国防衛を米国に依存することは出来ないことは分かっていた。トランプになって、さらに「一貫性がなく、信頼できなくなった(erratic and unreliable)」。サウジが自国だけでは生き残れない、地域の安全を維持できないことは、イエメン戦争が露呈した。サウジは実体のある同盟国が必要なのだ。

・二、三週間目に中国が興味を示したと伝えられるが、ありうる選択だ。中国にとっては原油供給の観点からも意味があるからだ。IPOによる手数料収入を期待していた銀行は困るだろう。

・本当に重要な問題は、ムハンマド皇太子の将来だ。彼の立場は弱体化している。次期国王を決める王族たちが、個人的な野心を持ち、急激な国家改造を目指す皇太子を支持しているのかどうか、明白ではない。目算が外れたIPOを棚上げすることが、皇太子の評価や将来を強めるものかどうか、分からない。

中国の「一帯一路」戦略は、着々と実行されているようだな。


編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2017年10月17日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。