為替報告書、対中批判トーンを軟化させ台湾を監視リストから削除

米財務省は17日、為替報告書を公表しました。今回、監視リスト対象の3条件(該当国び対米貿易黒字が200億ドル超、該当国の経常黒字がGDP比3%超、該当国の為替介入額がGDP比2%超)のうち前回4月に続き1つしか該当しなかった台湾が削除されています。なお、3条件は1988年に成立した包括通商・競争力法、2015年の貿易促進法に基づき、作成されました。

これで監視リスト対象国は日本や中国、ドイツ、韓国、スイスの5ヵ国へ減少しました。スイス以外は4回連続、スイスは3回連続となります。もちろん、為替操作国の認定を受けた国はゼロでした。


(作成:My Big Apple NY)

台湾を削除した理由につき、1)3条件をめぐり2期連続で経常黒字しか該当せず、2)為替介入規模の大幅縮小(上半期で30億ドルと前年比でほぼ半減、2017年6月までの1年間では50億ドルでGDP比0.9%)――を挙げました。為替介入が継続中でも、削除に踏み切った格好です。末尾には今後もウォッチし続けるとの文言を忘れなかったとはいえ、台湾にしてみれば御の字でしょう。

今回、新たに個別で指摘された国はインドです。監視リストにこそ入らなかったものの、為替介入規模を挙げ2017年6月までの1年間で420億ドル、GDP比1.8%に及んだと明記していました。またインドの対米貿易黒字も230億ドルと、監視国リストの条件に該当すると指摘。米財務省は今後、インドの為替動向とマクロ経済政策を緊密に注視していくとまとめています。

監視リスト入りした国別報告では、中国をめぐって引き続き国別で1位の膨大な対米貿易黒字を抱え2017年6月までの1年間で3,570億ドルに及んだと明記しました。ただし黒字は同年6月までの1年間でGDP比1.4%と、2016年の1.8%並びに2010年の10%から改善したと指摘。過去10年間行ってきた人民元高抑制につながる一方向の大規模為替介入を経て、1)足元の自国通貨安抑制の介入、2)資本規制の強化、3)人民元のフィキシングにおける裁量拡――などが「人民元安の無秩序な下落を阻止」し、米中や世界の経済に貢献していると評価しています。一方で、モノやサービスにおける市場の閉鎖性を問題視する姿勢を維持し、「一段の中国経済の開放(Further opening of China’s economy)」を求めました。

日本については、対米貿易黒字を捉え2017年6月までの1年間で690億ドル、GDP比3.7%と2010年以来の水準へ拡大したと報告しました。とはいえ、為替介入を実施しておらず、前回同様に日本経済の改善を求める表現目立ちます。日本は「金融緩和策や柔軟な財政政策に下支えされた潜在成長率を上回る経済動向を活用」し、「国内の活動が持続的に拡大するような構造改革や長期成長への道筋」を築くべきと主張していました。

――為替報告書によると、「(トランプ)政権は世界経済の甚大な不均衡を懸念している」といいます。今回初めて加わっており、こうした懸念から米中包括経済対話(ブッシュ~オバマ政権時代の米中戦略経済対話)、2018年への持ち越しが決定した北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉に取り組んでいると説明していました。また国際通貨基金(IMF)のほかG7、G20といった国際的な枠組みで為替動向に関わる問題について注力するよう推進しているとも報告。ここの文言は、ムニューシン財務相による国際通貨金融委員会(IMFC)声明とは、一致していると言い難い。声明では「現状における為替の安定と金融セクターの大いなる耐性が、力強くより持続的でさらにバランスのとれた世界成長につながる改革実施に理想的な機会を与えている」とあり、為替の文言もこの文章で1回登場する程度だったのですが・・。

北朝鮮問題や共産党大会に配慮し、前回4月分に続き中国への配慮が伺える内容でもありました。台湾の監視リスト削除に合わせ、中国へのトーンを和らげる必要性を感じたのかもしれません。また中国とドクラム地区で70日にわたり対峙したインドの為替介入につき、今回初めて懸念を寄せています。単なる中国のガス抜きで終わるのか、次回の為替報告が待たれます。

(カバー写真:Michael Pick/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2017年10月18日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。