閃きを得る

「くまモンの生みの親」とも称されるクリエイティブディレクター・水野学さんは、『日本人はイノベーションというと、全く新しいことをイメージしがちですが、「AとBをくっつけてCを生み出していく」ことを欧米人はイノベーションと呼んでいるように感じる(中略)、閃きというのも、何かと何かの接着から生まれてくると僕は思う(中略)。そしてうまく接着ができるかどうかは、その人の持つ知識や興味、環境といった様々な要因によるところが大きいと言える』と述べられているようです。

基本的には何も知識ベースが無い中で、ある日突然素晴らしいアイディアが天から降ってくる、といったことは極めて稀な話でしょう。色々な発明者や数学者あるいはノーベル賞受賞者のケースを見ていても、やはり何らか問題意識を持って長年に亘り研究し真剣に考える、といった中でヒントがパッと出てくるものだろうと思います。概して、そうしたプロセスを経ずしてイノベーションは生まれてこないと思います。

当ブログでは嘗て『天才の特徴~「一時にパッとわかる。」ということ~』(14年3月31日)等で、大数学者アンリー・ポアンカレーの発見に対する日本が世界に誇るべき天才的数学者・岡潔氏の見解や、「アルキメデスの王冠の話」等を御紹介しました。後者は、彼の有名な「アルキメデスの原理・・・流体の中で静止している物体は、それが押しのけた流体の重さだけ軽くなる、すなわち浮力を受けるという原理」に繋がって行くことになります。

史上天才と言われる様々な人は徹底的に考えに考えた末、暫く当該事項から離れていたとしても、何かの拍子にある日突然それが蘇ってきてふっと閃いたりする、と上記ブログでは指摘しました。必死になって考えに考えた挙句、疲れ果てて寝転んだ時にふっと良い知恵が湧いてくるといった具合に、アイディアや閃きを得る時には、必死になって考える局面が必ず何処かであるはずです。

イノベーションには確かに、「AとBをくっつけてCを生み出していく」ケースが非常に多く感じられます。例えば転換社債という金融商品がありますが、之は社債と株式という既存商品を組合わせ両性質を併せ持ったもので大変な人気商品となりました。あるいは定期預金証書というのがありますが、之は既存の定期預金を流動化させるべく証書にして色々な人に持たれるようして行く一つの組合わせです。このように多くの閃きは、組合わせから生じているわけです。

もっと言うと、例えば人間のヒトゲノムの解析がこれだけ短期間に為された事実は取りも直さずインターネットの進展に拠るものであり、インフォメーションテクノロジーとバイオテクノロジーとが結合したバイオインフォマティクスという学問的・技術的領域の急速な進展が齎した成果に拠るものです。あるいはinterdisciplinary(インターディシプリナリー、学際的)という英語がありますが、此の学際的な研究システム(多分野の専門知識や経験が必要な研究課題等に対して、様々な領域の学者や技術者が協力し合うシステム)の構築が極めて重要になってきています。

英国のケンブリッジ大学やオックスフォード大学を例に見ますと、各カレッジでは色々な領域の学者が一堂に会して食事を共にします。その際、例えば生物学者の言葉を聞いて数学者の頭にピンときて何かの研究サブジェクトのヒントを得る、といったような話は多々あります。こうした学際的環境が新しい着想・発想を誘発することは、現実味あることです。

何れにせよ、無から有は基本的には、そう簡単には生じません。先ず有を齎そうとする弛まぬ努力が求められてはいますが、その人の知識や経験あるいは環境等々、様々な事柄が絡み合い複雑に作用し合う中で、不思議な展開があるようです。

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