【映画評】ミックス。

母のスパルタ教育により、幼い頃は、天才卓球少女ともてはやされた富田多満子は、母の死後は、普通の青春、普通のOLに憧れ、地味で平凡な毎日を送っていた。トラウマである卓球を封印しながら、会社の卓球部のイケメンエースの江島とつきあうことになるが、新入社員の美人卓球選手・愛莉に江島を横取りされてしまう。会社を辞めて逃げるように故郷に戻るが、亡き母が残した卓球クラブは赤字で活気がなく、数少ない部員もさえないメンバーばかりだった。しかし、江島と愛莉の幸せそうな姿を偶然見かけた多満子は、クラブ再建と打倒江島・愛莉ペアを目標に、全日本卓球選手権の男女混合(ミックス)ダブルス部門への出場を決意する。妻と娘に見捨てられ落ちぶれた元プロボクサーの萩原久とペアを組み、猛特訓を始めるのだが…。

かつての天才卓球少女が卓球クラブの再建と男女混合ダブルスでの勝利を目指すスポーツ系ラブ・コメディー「ミックス。」。卓球がモチーフだが、スポ根ものではないところがミソだ。ヒロインの多満子のモチベーションは、自分を捨てた男を見返したいという非常に個人的なものだし、元天才卓球少女なのに、これといった必殺技も持っていない。ペアを組む元プロボクサーとの男女混合(ミックス)ダブルスの妙味もさして感じないし、卓球ならではの心理的駆け引きもない。ここまで卓球を脇に追いやっておきながら、登場人物のほぼ全員が卓球が大好きという設定なのだから、スポーツではあっても根性は皆無なのだ。

とはいえ、見所はちゃんとある。多満子たちの練習相手の強敵はことごとくキャラが立っていて爆笑ものの個性派ペアばかり。中でも蒼井優が怪演する中国人キャラクター(卓球クラブのメンバーたちがいきつけの中華料理店の店員)は最高で、「休むときは死ぬときヨ!」のせりふにシビレた。小悪魔女子キャラが板についてきた永野芽郁もいい。だが何と言っても、破壊的なほど可愛いガッキーの好感度が映画を支えている。スポーツ映画としても、ラブストーリーとしても、コメディーとしても、今一つ突き抜けていないが、小ネタで楽しませるサービス精神は旺盛。TVドラマ「リーガルハイ」などの売れっ子脚本家・古沢良太の嫌味のない脚本で、薄く浅く、軽く楽しく過ごせる作品だ。
【55点】
(原題「ミックス。」)
(日本/石川淳一監督/新垣結衣、瑛太、広末涼子、他)
(スポ根度:★☆☆☆☆)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2017年10月23日の記事を転載させていただきました(アイキャッチ画像は公式Twitterから)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。