それはいいことなので政府は何もしなくてもいいのですが、安倍政権は選挙向けに「教育無償化」とか「人づくり革命」とか苦しい話を出しました。でも景気をよくするだけなら簡単です。政府がお金を使えば、政府支出はGDP(国内総生産)にカウントされるのでGDPはふえます。それが役に立つ必要はありません。ケインズは『一般理論』でこう書きました。
大蔵省が古い瓶に紙幣を詰め、適当な深さの廃鉱に埋めてゴミで地表までふさぎ、民間企業がその札束をふたたび掘り出す事業を作り出せば、失業はなくなり、その波及効果で社会の実質所得とその資産も今よりずっと大きくなるだろう。
もちろんこれは冗談ですが、まちがいではありません。たとえば政府が瓶に1億円を入れて深い穴の底に埋めると、GDPは1億円ふえます。企業がこれを掘り出す人をやとうと、彼らの給料も出るのでGDPは1億円以上ふえるでしょう。これを乗数効果といいます。
むしろ景気回復のためだけなら、むだづかいのほうがいいのです。政府が総需要を増やしても、投資が役に立つと供給も増えて需給ギャップが縮まらないからです。お金を地下に埋めるより、ヘリコプターからばらまくほうが確実です。たとえば100兆円ばらまいたら、瞬間的には名目GDPも100兆円ふえ、景気はよくなるでしょう。
これが今、起こっていることに似ています。安倍政権の財政支出はそれほど増えていませんが、日銀が500兆円も資産を買い、隠れた財政支出をやっています。その9割は国債ですが、あとは株式などの民間投資ですから、株価が上がるのは当たり前です。
でもこういうバラマキを永遠に続けることはできません。金利が上がってインフレになるからです。消費者物価は上がっていませんが、株価や地価に資産インフレが起こっています。それはバブル崩壊という形で終わることが多い。
そのあと残るのは、日本人の築いた富です。みなさんのお父さんは1000兆円を超す政府の借金を残しますが、資産として何を残してくれるのでしょうか。みなさんから借りた年金を使うだけだと、瓶に詰めたお金はお父さんが使ってしまい、みなさんには空き瓶だけが残ることになります。