トランプ大統領の東アジア政策を左右する日本(特別寄稿)

渡瀬 裕哉

flickr、首相官邸サイト:編集部

北朝鮮に対する米軍の軍事圧力の増大、空母3隻体制へ

10月25日、アメリカ軍は、北朝鮮情勢への対応に当たっている第7艦隊の管轄海域に、ロナルド・レーガン、ニミッツ、セオドア・ルーズベルトの3隻の空母が入ったことを発表しました。今年に入ってから煽り立てられてきた北朝鮮有事ですが、従来まではほぼ空母1隻体制でしかなかった状況に鑑み、朝鮮半島情勢が新たな局面に入ったと象徴的な出来事と言えるでしょう。イラク戦争時には空母6隻が動員されたことを考慮すると、米軍にはまだ余裕がある状態と言えますが、北朝鮮に対する軍事的圧力は明らかに強化された状況にあります。

これはトランプ大統領の東アジア歴訪を前にした布石として捉えることが妥当であり、同大統領が軍事力を背景とした交渉を日韓中各国と行う意思の表れとも言えます。また、トランプ大統領は、米国内で元選対本部長が資金洗浄で捜査されるなどロシアゲート問題が佳境を迎えつつある中、東アジアにおける外交・安全保障問題で政治的な得点が欲しい状態となっています。一方、北朝鮮の金正恩側は今年に入ってからの度重なる挑発行為を控えており、一か月以上ミサイル実験・核実験を行わないなど、米国からの軍事圧力に対して慎重な姿勢を取っています。

トランプ大統領が強気の対応に出られる理由は日本のサポートがあるから

筆者は先月末の記事で、CNNが行った世論調査によると、米国民は北朝鮮に対する軍事行動を支持しているものの、米国単独での軍事行動には必ずしも同意しておらず、周辺国との協力を必要としている、という事実を指摘しました。(また、同記事の中で朝鮮半島沖に複数の空母が配備されることを述べさせて頂きました。)

日本人の選択が朝鮮半島有事を決める(9月30日)

したがって、米国の東アジア政策の緊張の高まりに合わせる形で行われた総選挙において、与党側が圧勝するだけでなく野党側の護憲・反安保法制勢力が実質的に崩壊したことは、日本側が積極的な外交・安全保障政策を選択する準備があるという民意を明確に米国に伝えたことになるものと思います。その結果として、同盟国である日本からの政治的・外交的バックアップを得ることで、トランプ政権は韓国・中国に対して強気の外交交渉を行うことが可能となっています。

日本は北朝鮮有事に繋がるエスカレーションをどこまで許容するのか

一方、東アジアに外交政策に関しては、トランプ政権は実は得意ではありません。同政権の東アジア地域の外交専門家の層は薄く、外交・安全保障のブレーンは主に中東地域の専門家であることから、東アジア政策に関しては外交的側面というよりも軍事面での展開が突出しつつあるように感じます。筆者がワシントンD.Cで出会う共和党の方々も朝鮮半島情勢について極めて楽観的な見通しを持った人々が多い印象を受けます。その中でトランプ政権の不十分な外交体制を利用し、トランプ大統領の国連演説に北朝鮮による拉致問題を言及させるなど、日本政府が外交的な得点を稼いでいることは確かです。

日本政府は「トランプの東アジア政策」を買いたたけ!(8月31日)

ただし、米国の軍事的圧力が強化されていく中で、実際に日本政府としては落としどころを実際にどこまで考慮しているのかは極めて疑問です。トランプ政権の北朝鮮に関する目標は非核化・ICBM開発阻止にあるものと推測されますが、万が一の朝鮮半島有事が発生した場合、直接的な被害を受ける日本側とリアルな意思疎通ができているとは思えません。

日本が決める「トランプ大統領が何をどこまでできるのか」

一般的な理解として、米中の二か国によるバランスによって東アジア情勢が左右されることは間違いありません。日本は米国の軍事力に依存する弱い同盟国としての立場であり、自らの意志によって国際情勢を左右することは難しいものと思います。

しかし、北朝鮮情勢については軍事的脅威が高まりつつあり、米中の外交的な鍔迫り合いという側面を超えて、米国にとっては同盟国からの実際の軍事的な支援が必要不可欠な状況となっています。したがって、トランプ大統領が北朝鮮に対して「何をどこまでできるのか」については、日本が協力するか否か、ということが大きく影響を与えることになるでしょう。

日本政府は従来までのように米国に追随するのではなく、日本として何を得ることが目的なのか、軍事的エスカレーションとして許容できる範囲はどこまでか、そして自国に甚大な被害をもたらす朝鮮半島有事を止めるためのターニングポイントはどこか、を見定めることが重要です。今後、益々緊張感が高まる朝鮮半島情勢の結末を決めるのは実は日本だということを日本人は肝に銘じることが必要です。

トランプの黒幕 日本人が知らない共和党保守派の正体
渡瀬裕哉
祥伝社
2017-04-01

 

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