改憲の鍵を握るのは、枝野幸男氏だ

篠田 英朗

Wikipediaより:編集部

今回の衆議院選挙で最も注目度を上げたのは、枝野幸男・立憲民主党代表である。55議席の小政党の代表でありながら、「躍進」した「野党第一党」の党首として、民進党時代とは違う存在感を作り出した。

小池百合子氏に「排除」された「リベラル」派が結集した、と報じられた。私は、「排除」されたのは「リベラル」ではなくて、冷戦時代に「革新」と言われていた勢力のことだろう、とブログで指摘した。

排除されたのはリベラル派でなく、冷戦時代からの改憲反対派では

実際、団塊の世代が、立憲民主党の支持者層の中核であったことが、各種調査から判明している。

出口調査から見える衆議院選挙(NHK NEWS WEB)

冷戦時代からの「革新」勢力である限り、立憲民主党には、万年小規模野党のジリ貧の運命が待っている。ただし、枝野氏は「冷戦時代からの革新」勢力支持者層を固める戦術を中心にしながら、一方では将来に向けた布石を打っていた。自らを「リベラル」と呼ぶことを拒絶し、むしろ「保守」であることを強調した(拙稿「立憲民主党・枝野幸男代表の「リベラル保守」主義について」)。小林よしのり氏ら「保守」派を自認する有名人が応援演説に駆けつける場面もあった。

そこで選挙後に、私は、立憲民主党の未来は改憲にある、というブログ記事を書いた。

立憲民主党の未来は実は改憲にある

せっかく将来に向けた布石を打ったのであれば、次はそれを活かす方策を考えるのは、野党第一党党首の責務だろう。

高村正彦自民党副総裁は、立憲民主党に改憲論に入ってもらいたい、共産党は誘わないが、という秋波を送った。

自民・高村氏「立憲民主党も入れて改正できればいい」(朝日新聞デジタル)

枝野代表は、この流れに乗るかのように、9条改正論議に参加する代わりに、首相解散権を制限する憲法7条の見直しに関心があることを表明した。

憲法7条の解散権は制約すべきだ(アゴラ・池田信夫氏)

もし自民党が7条改憲を拒絶しなれば、当然、立憲民主党は9条改憲を拒絶しないということだ。立憲民主党の支持基盤を考えれば、そのような折衝が進展することに、大きな意味がある。

私は9条3項追加案に賛同しているが(もちろん具体案が出ていないので、現時点では「9条解釈を確定させる3項追加」を提案しているにすぎないのだが)、改憲の現実性が高まっているとは考えていない。今回の衆議院選挙でも、与党側が大勝したとはいえ、世論に影響を与える大きなモメンタムを作り出したとまでは言えない。

もし自民党が本当に改憲に本気なら、枝野代表を、野党第一党党首として、厚遇するはずだ。
立憲民主党からすれば、政策を出せる健全な野党である、ということをアピールする大きなチャンスだろう。そもそも国政選挙に先立って改憲問題に一定の決着をつけることができれば、立憲民主党は、内政面に焦点をあてた国政選挙に臨むことができる。それは外交安全保障政策での不安感がつきまとう立憲民主党にとっては、大きな意味を持つ。

もし枝野代表が本当に立憲民主党を政権担当能力のある政党に育てることに本気であれば、仮に支持者を意識して慎重に振る舞うとしても、改憲発議は容認するだろう。

枝野幸男代表こそが、改憲の鍵を握る人物だ。

なお、私個人の希望を述べれば、そういう構図が作れるのであれば、なおさら自衛隊の存在の合憲性を明確するだけでは、物足りない。自衛隊の活動の合憲性をきちんと明確化する憲法解釈確定案を出してもらいたい。

この機会に、自民党には、是非、現行憲法が国際法と調和する性格を持っているものを強調し、国際法にそって自衛権を運用する解釈が最も安定する、ということを、日米同盟重視の政策とあわせて、強調することを検討してほしい。

そうなると立憲民主党は、集団的自衛権を違憲とし、国際法と調和する憲法案を否決する運動を、米国への「従属」解消を唱える政策とあわせて、展開することになる。(「保守」である枝野代表を支持する小林よしのり氏の説明

枝野代表は、安保法制は違憲だと言い続けなければならない立場に自らを追い込んでしまった。政権担当できる責任政党に立憲民主党を育てたいのであれば、大きな足かせである。早く処理しておくべきだ。永遠に「憲法学者へのアンケート」を参照し続けるスケールの小さい政治家像から脱皮するためには、集団的自衛権を違憲とする改憲案を、積極的に提示するべきだろう。日本がすでに批准している国連憲章に留保を付ける措置の明確化も行うべきだろう。


編集部より:このブログは篠田英朗・東京外国語大学教授の公式ブログ『「平和構築」を専門にする国際政治学者』2017年10月30日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。