【映画評】女神の見えざる手

渡 まち子

敏腕ロビイスト、エリザベス・スローンは、銃の所持を支持する仕事を断り、大手ロビー会社から、銃規制派の小さな会社に数人の部下を連れて移籍する。莫大な財力を誇る敵陣営に、卓越したアイデアと強気の決断力で立ち向かうエリザベスだったが、やがて彼女の赤裸々な私生活が露見し、さらには彼女の部下を巻き込んだ予想外の事件が発生。事態が悪化し、絶体絶命のピンチに陥ってしまう…。

政府や世論を影で動かす戦略のプロで天才ロビイストのヒロインの闘いを描く社会派サスペンス「女神の見えざる手」。ロビイストとは、特定の主張を有する個人または団体の利益を政治に反映させるために、 政党・議員・官僚などに働きかけることを専門とする人々のこと。主人公エリザベスは花形ロビイストで、真っ赤なルージュ、高級ブランドの服、ハイヒールといういでたちで、敵だけでなく味方さえも欺く戦略の天才だ。ワーカホリックで寝る時間も惜しんで働き、恋愛はエスコートサービスで合理的に済ませるという、あまりに好戦的なこのヒロインに共感するのが最初は難しいかもしれない。だが、したたかで巧妙な彼女の手段は時にダークでも、その信念は気高いことに気付いた時、エリザベスが“女神”に見えてくる。

演技派のジェシカ・チャステインが「ゼロ・ダーク・サーティ」よりさらにパワフルな女性を怪演に近い熱演で演じて魅力的だが、脇を固める役者もマーク・ストロング、ジョン・リスゴー等、渋いキャスティングなのがいい。「恋におちたシェイクスピア」などのジョン・マッデン監督の演出は、すこぶるテンポが良く、裏切りやどんでん返しを繰り返しながら、132分を一気に駆け抜け、飽きさせない。欲を言えば、先を読み、罠をしかけ、切り札を隠し持つエリザベス・スローンの、プライドとストレスでせめぎ合う心の内(うち)をもう少し見たかった気がする。銃規制法案というタイムリーな話題、聴聞会のシーンから過去を紐解く語り口の上手さ、政治の腐敗の内幕までも見せてくれる、良質な社会派ムービーだ。同時に、現実社会でこれほど銃乱射事件が頻発し犠牲者が出ても、アメリカが銃社会であり続ける複雑な事情が伝わってきてやるせない。
【70点】
(原題「MISS SLOANE」)
(アメリカ/ジョン・マッデン監督/ジェシカ・チャステイン、マーク・ストロング、ジョン・リスゴー、他)
(辛辣度:★★★★★)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2017年11月2日の記事を転載させていただきました(アイキャッチ画像は公式Facebookページから)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。