次はシャインマスカット流出?唯一の対策はブランディング

シャインマスカット(Wikipediaより:編集部)

こんにちは!肥後庵の黒坂です。

昨日、日本発コンテンツとして世界へ向かうシャインマスカットという記事を書き、シャインマスカットが世界に注目されていることを取り上げました。当店でも人気沸騰中のシャインマスカットですが、実はこのシャインマスカットが今、静かに海外流出の危機にさらされています。

日本の果物品種が海外流出するという事件は、これまでも度々起こっています。直近ではイチゴ品種が韓国に流出した被害金額の試算がなされていました。どうすれば果物の海外流出を食い止めることができるのでしょうか?

中国に苗木が渡り、販売されている可能性

日本農業新聞の記事によると、次のようにシャインマスカットの苗木が中国に渡ってしまった可能性を示しています。

農研機構が育成した人気のブドウ「シャインマスカット」の苗木を、中国の業者が無断で生産、販売している疑いが出ている。中国での品種登録の出願を期限内にしなかったため、有効な対抗策がない。農研機構は近く現地に職員を派遣し、実態を調査する。イチゴなど他の国内育成品種でも同様の問題が起きている。日本の農産物輸出に影響しかねず、海外の品種登録促進など知的財産戦略が課題となっている。

引用元:日本農業新聞「シャインマスカット苗木 中国業者が無断販売 海外で品種登録せず 知的財産戦略に課題」

また、単に苗木が渡ってしまっただけではなく、商品として苗木の販売がされているようです。こうなると疑いはもはやグレーではなく、限りなく黒に近いですよね。

「食味極上」「品質抜群」――。中国の苗木業者が「日本の品種『陽光玖瑰(shine Muscat)』」としてこう宣伝する。インターネット上では複数の業者が苗木を販売。さらに現地報道では、広西チワン自治区が昨年7月、試験栽培に成功するなど今後栽培が広がる兆しもある。高級果実として現地の消費者の人気も高い。

また、中国人は日本人よりフルーツ好きであることが知られています。「一日どのくらい果物を食べるか?」という世界の国々のデータによると「中国人は223g、日本人は140g」とあり、日本人に比べて1.6の量です。

画像引用元:くだもの200グラム 一人一日あたりの果物の消費量(2011年)

そんな果物大好きな中国人が日本の高品質フルーツの苗木を手に入れるとなると、その機会損失は計り知れません。機会損失というのは、本来日本が中国に果物を輸出し、現地で販売して稼ぐことが出来たであろうお金を得る機会を失ったという意味です。

品種登録出願だけでは防げない海外流出

「品種登録をしていれば…」と悔やむのではなく、なぜ品種登録ができなかったか?という事を考えるべきではないでしょうか?

シャインマスカットを育成した農研機構は品種登録をしなかった理由について「輸出は考慮していなかったから」としていますが、同時に海外流出も想定していなかったわけではないでしょう。過去にもカーネーションやさくらんぼ、いちごなどが流出しているので、そのリスクを知らないはずがないと思うのです。問題は意識の欠落ではなく、出願へのハードルの高さの方だと私は思うわけです。

記事にある通り、10年という長い品種登録期間に加え、年間数十万円という高額な審査料が必要で、しかもそれを国ごとに払うとあります。全然現実的ではないですよね?「輸出を想定していないから、時間もお金もかかる品種登録は出願しない」という今回の判断をそこまで責められるものじゃないと思います。

ハッキリ言って、こんなに高い品種登録のハードルがあるならば、海外流出防止策になっていないと私は思いますね。

海外流出を防ぐのは品種登録ではなく、「ブランディング」

じゃあどうすればいいのか?という答えに対して、私は品種登録ではなく、「ブランディング」しかないと思っています。

見つかれば極刑を課せられる麻薬でさえ、持ち込みを100%防止することは出来ていません。ですので、流出しないようにするのではなく、流出しても効果が薄いようにしてやればいいのではないかと考えます。例えばエルメスやルイヴィトンといった高級ブランドがありますよね?中国では大量のコピー品が作られ、売れていますがそれによって本家の高級ブランドが全然売れなっているでしょうか?彼らはわざわざ日本にやってきて、正規品のブランドを買いまくっているじゃないですか。

円安という事情も手伝っているかもしれませんが、やっぱり本物がほしいという人はどこの国にもいるんですよね。安ければ偽物でもいい、という考え方をする人はどこの国にもいますし、高くても本物がいいと考える人も中国にはいるというわけです。

彼らが日本のフルーツの質の高さを心底理解できるよう、こちらから積極的に彼らの口に入るようにマーケティングをすることができればどうでしょうか?

そうなるとたとえシャインマスカットが中国にコピーされても、一部の中国人は中国産ではなく日本のシャインマスカットを買い続けると思うんですよ。なぜかって彼らは「シャインマスカットが食べたい」のではなく、「高品質の日本産のシャインマスカット」が食べたいと考えるからです。それはルイヴィトンやエルメスを日本の銀座にやってきて、買って帰る中国人と同じことだと思っています。

品種登録のハードルの高さをどうこうするより、「ジャパンフルーツ」としてブランディングをする方がよほど強力な品種の海外流出防止策になると思うのは私だけでしょうか?

ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。