11月6日(月)の原油市場は大幅に上昇した。ブレント原油は64ドルを超え、今年6月の底値から40%以上、上昇した。終値は2.20ドル高の64.27ドルだった。WTIは一時、2年ぶりの高値57.41ドルをつけ、1.71ドル高の57.35ドルで引けた。
11月7日(火)、欧州市場が開く前、ブレント原油、WTIともに0.1%ほど下げている。
果たして原油価格は、このまま上昇し続けるのだろうか?
弊ブログの読者の皆さんにも関心の高いところではないだろうか?
中東ではさまざまな地政学リスクが噴出している。
サウジでは先週末、「反腐敗運動」の名の下に、ムハンマド・ビン・サルマン皇太子への権力集中が促進された(弊ブログ#380「ムハンマド皇太子はサウジの”ゲーム・オブ・スローンズ”の勝利を目指している」参照)。法治国家ではないことを歴然と見せつけた今回の「一斉拘束」は、外部の投資家たちにサウジへの投資に足踏みさせることになるだろう。
いつ、何どき、何が起こるか、分からないことを見せつけたからだ。また、たとえばサウジアラムコの少数株主になった場合、マジョリティ株主であるサウジ政府は、経営に対する少数株主の要求を全く聞かないだろう、と容易に想像できる出来事だ。
「一斉拘束」劇の直前、イエメンからミサイルがリヤドに向け発射され、サウジ側が迎撃したため実害はなかったが、これは「イランからの明らかな戦争行為だ」との声がサウジ国内では上がっている。
昨年就任した親サウジのレバノン・ハリリ首相は、暗殺の危機を感じているとして訪問中のリヤドで辞任を表明した。イランが影響力を持つヒズボラが狙っている、というわけだ。
イラクでは、国民投票で独立賛成派が大多数を占めたクルディスタン自治共和国(KRG)の動きに反発し、空路を封鎖した他、イラク国軍が、KRGが実効支配していたイラク北部のキルクーク油田地帯に侵攻、完全に制圧した。KRGのバルザニ首相は10月末、辞任を発表したが、緊張はまったく収まっていない。
サウジ、UAE、エジプト、バーレーンによるカタール封鎖は、すでに5ヶ月が経過したが、正常化への途はまったく見えてこない。
このような情勢の中、FTが “Oil climbs above $64 a barrel after Saudi crackdown” と題する記事を掲載している。サブタイトルは “Concerns about stability and policymaking in world’s largest crude exporter” となっている。
記事の要点は上述したものと重なるところが多いが、その中で原油価格の動向に関係するところだけ、次のとおり紹介しておこう。
・$60以上への価格上昇は、先進国、新興国を含め、世界的に経済が順調なため、石油需要が増加し続けていることに支えられている。
・OPEC/非OPECによる180万BD(世界供給の約2%)の協調減産が、2014年から積み上がっている過剰在庫の解消に役立っている。
・11月30日のOPEC総会では、減産が延長されるだろうと見られている。
・米国シェールも、これまでの「ともかく掘削する」という姿勢から、より高い利益率追求に重点を移している。
・この結果、数週間前には考えることもできなかった、年末までに70ドルに上昇する、ということすら語られるようになっている。
・だが、アナリストの中には、高値はシェールなどの供給増をもたらす可能性がある、と注意を喚起する人もいる。
・Commerzbankのアナリスト、Carsten Fritshは、短期的にはサウジ国内の緊張が原油市場を動かしていくのだろうが、今日の価格上昇は短期的だろう、と主張する。「我々はこれまで、我々の保守的な価格見通しに対する最大のリスクはサウジの政情不安だ、と言い続けてきた」「地政学ニュースが市場を支配している限り、基礎的データ(fundamental data)にのみ依拠する価格予測は、全く意味をなさない」
編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2017年11月7日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。