「もし見出しが大きければ、それは大きなニュースとなる」――映画“市民ケーン”の名言通り、8日付けの米紙はトランプ米大統領に不都合な見出しで埋め尽くされ、同氏にとって初訪中のニュースが小さく取り扱われてしまうかもしれません。
中間選挙の動向を占う知事選で、民主党に勝利の女神が微笑んだためです。
バージニア州では、反トランプ路線を鮮明にしたラルフ・ノーサム副知事が共和党候補のエド・ガレスピー元同党全国委員長を下しました。バージニア州知事は4年の1期のみのところ、2期連続で民主党が知事の座を死守しています。1990年以降では、8人中5人目の民主党知事の誕生です。2016年の大統領選で、3期連続にて民主党候補を勝利させたトレンドを維持しました。
ニュージャージー州でも、民主党のゴールドマン・サックス出身で駐独大使の経歴を持つフィル・マーフィー候補が勝利を収めています。共和党候補で副知事のキム・グアダーニョ氏は、大差をつけられ敗北しました。2016年にトランプ陣営にいち早く支持表明し、大統領選後の政権交代チーム責任者まで務めたクリスティー州知事(4年、2期当選)の後継者なだけに、バージニア州の共和党候補と同じく反トランプ票に見放された格好です。ついでながら数多くの市長選のなかで、ニューヨーク市では現職のデブラシオ市長が2期目の当選を果たしました。
翻って知事選が行われる以前、トランプ政権発足後の特別選挙は4戦全勝で共和党候補が勝利していたのですよ。
(作成:My Big Apple NY)
しかし主に共和党寄りの州いわゆるレッドステーツだったため、トランプ米大統領への有権者の信任を十分に反映した結果と言い切れません。では、今回の結果が民主党へ吹き始めた追い風を象徴するのでしょうか?
視点を2018年11月6日に開票を迎える中間選挙に移すと、上院での民主党の多数派奪回は難しい。下院となれば共和党の議席数が239に対し民主党は194で、民主党が2010年以来の過半数を獲得するためには24議席が必要になります。超党派機関のクック・ポリティカル・レポートは、知事選前の10月13日時点で民主党候補が挽回しつつあると指摘。新たにアリゾナ州、カリフォルニア州、アイオワ州、ニューヨーク州などの12選挙区で共和党有利だった構図が変わり、「共和党盤石の州→共和党寄りの州」や「共和党寄りの州→接戦州」へシフトしたといいます。しかし、11月7日時点で共和党寄りの選挙区は48に対し民主党は18、接戦の26選挙区でも共和党寄りは13と民主党の3を圧倒しています。
CNN/SSRSの調査をみても、有権者が民主党支持に必ずしも傾いてようには見えません。
民主党に「好ましい」と回答した割合は37%と、前回3月時点の44%から急低下していました。「好ましくない」との回答も54%と、1992年以来で最高を更新しています。民主党の中核的支持層と言える非白人でも48%、35歳以下でも33%と振るわず。ドナ・ブレイジル前民主党全国委員長が自著で2016年の民主党予備選でのクリントン候補による不正行為を指摘し、その波紋が調査結果に表れたようです。
共和党に対する「好ましくない」との回答も30%と、1992年以来で最低でした。議会の支持率は支持率が今年3月の22.5%と2010年以来で最高を続けてから元の10%前半へ戻しており、ワシントンへの不信感が再燃している実態が伺えます。税制改革への支持率は31%と低空飛行を続けており、減税期待が支持率を押し上げることもないでしょう。
選挙は水物であり、蓋を開けてみればわからないもの。政府機関の閉鎖を迎えた2013年10月に共和党の不支持率が過去最悪を更新した後、オバマケアのサイト障害などから共和党は下院だけでなく上院を奪回、2006年以来の上下院多数派の座を獲得しました。中間選挙まであと1年、まだまだ様々なドラマが待ち受けているに違いありません。
(カバー写真:Mr.TinDC/Flickr)
編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2017年11月8日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。