安倍晋三首相が11月11日、訪問先のベトナムで習近平総書記と会談した。日本では習近平が安倍と笑顔で握手する場面が注目され、あたかもそれを日本の勝利であるかのように報じるメディアもあった。大本営発表を垂れ流す、かつての自己検閲報道と変わらない。
日本はまともな対中外交方針を持っていないので、日本の成果ではなく相手が変わったに過ぎない。安倍は訪中を約束しながら、習近平は訪日を明言していない。ハイレベル対話再開の見込みも示されず、手詰まり状態は全く打開されていない。
習近平の「笑顔」は余裕の表れだ。何度も指摘してきたが、習近平が権力基盤を固めれば、日中関係は安定する。(参照拙稿「中国の政治を理解するための視点⑨」)
安倍が集団的自衛権の容認や歴史認識の再定義、そして改憲を通じてアジアに脅威をもたらしているというのが中国側の公式見解であり、それでもなお「笑顔」を演じられるのは、政治的リスクの大きい対日政策で足元をすくわれる憂慮がなくなったことを意味する。トランプ米大統領の訪中が初期の目標を達成し、すっかり自信を深めたのである。「笑顔」は日本を通り越し、米国に向けられていると考えた方がいい。
習近平が目指す「二つの百年」目標は、「反日」どころではなく、日本を超越する「克日」「超日」の思想である。
習近平の権力掌握について先日、大学の同僚と議論をしていて、2015年9月に行われた抗日戦争勝利70年の軍事パレードが話題に上った。
中央軍事委主席の習近平が乗ったのは、全長6.4メートルの黒塗りの国産高級オープンカー「紅旗」だ。吉林省長春の第一汽車が閲兵専用に製造したもので、今年は初めてナンバープレートの位置に国章が置かれた。1959年に初めて閲兵専用の車が製造され、84年、99年、2009年と改良を重ねた、前回は。車の性能がさらに高められてのは言うまでもないが、それ以外、過去との際立った特徴は、総指揮官、宋普洗・北京軍区司令の車両だった。
上の写真を見ると、2台は同じ紅旗だが、明らかに習近平の方が大きい。圧倒的な差を見せつけている。
ところが過去の例では、中央軍事委主席と総指揮官の紅旗の差はさほど目立たない。
議論が分かれるのは、習近平の代になって生じた大きなパレード用車両の格差が、なにゆえなのかということだ。ある者は、習近平が進める綱紀粛正で倹約化が浸透し、主席以外の公用車が簡素化されたとみる。またある者は、主席の権威が高まり、その他との落差を強調するためだったとみる。ぞれぞれに道理があるようだが、いずれにも共通しているのは、習近平が軍をしっかりとコントロールできているとの認識だ。
軍は権限の源泉である。余裕の「笑顔」の源泉も、こんなところにあるのかも知れない。
編集部より:この記事は、汕頭大学新聞学院教授・加藤隆則氏(元読売新聞中国総局長)のブログ「独立記者の挑戦 中国でメディアを語る」2017年11月14日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、加藤氏のブログをご覧ください。