【映画評】泥棒役者

金庫破りの名人の泥棒だった過去がある溶接工員の青年・はじめは、今は足を洗い、真面目に働きながら、優しい恋人と、ささやかながら幸せな日々を送っている。そんなはじめの前に、昔の泥棒仲間の則夫が現れ、恋人に過去をバラすと脅されて渋々盗みを手伝うことになる。絵本作家・前園俊太郎が住む豪邸に忍び込んだ2人だったが、はじめはそこで、家主の前園や女性編集者、セールスマンなどから、編集者や絵本作家、屋敷の主人など、別人に間違えられてしまう。その場限りの嘘で各人物に成りきりながら、それらしく振舞ってごまかすはじめだったが…。

「小野寺の弟・小野寺の姉」の西田征史監督が2006年に作・演出した舞台を、自ら映画用に脚本化したコメディー「泥棒役者」。元泥棒で人が良すぎる青年が、忍び込んだ豪邸で次々に別人に間違えられ、泥棒であることを隠すために、間違えられた役柄を役者のように演じていくハメになる様を描く。偶然に偶然が重なり、嘘を隠すためにさらに嘘を重ねる。綱渡りのような展開は、最初は笑いを誘い、少しずつ嘘にほころびが生じ始めると、それぞれの人物の事情が明らかに。泥棒が逃げ切れるのか?というスリルもさることながら、登場人物たちに芽生えた奇妙な絆が見所だ。

元が舞台というだけあって、物語のほとんどが絵本作家の家の中だけで展開する、ワンシチュエーション・コメディーなので、俳優の演技力やせりふの掛け合い、脚本の面白さが問われるが、これがなかなかよく練られた脚本で飽きさせない。主人公はじめを演じる丸山隆平(関ジャニ∞)は、少しとぼけた天然の魅力で好演しているし、市村正親や高畑充希ら、実力ある豪華キャストが脇を固めている。勘違いやすれ違いを経て、はじめが変化していくプロセスは、喜劇であると同時に成長物語でもあるのだ。劇中に登場する絵本「タマとミキ」の“秘密”が、すべての人々に希望を届けてくれる。クセもの8人のすったもんだは、時にご都合主義があっても、いつしか心がほっこりあたたまるものだ。うまくいかないこともある人生だけど「まだ終わってないニャー」!。そうそう、エンドロールの後、監督ゆかりの“あの人たち”に会えるので、最後まで席を立たずに見てほしい。
【60点】
(原題「泥棒役者」)
(日本/西田征史監督/丸山隆平、市村正親、石橋杏奈、他)
(コミカル度:★★★★☆)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2017年11月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。