会計検査院の報告を評価
大阪の森友学園への国有地売却で、会計検査院が検査結果をまとめました。安倍政権や担当官庁の協力が十分に得られたとはいえない状況の中では、よくやったというべきでしょうか。よくやったというのは、随所にある「分からなかった」という表現を通じて、何が起きたのかを雄弁に語ってくれているからです。
「担当省庁のやり取りの資料がなく(廃棄のこと)、内容を確認できなかった」、「売却価格を1億3000万円とした検討内容が明らかでない」、「ゴミが埋まった深度を計測した記録がない」など、指摘は具体的です。読んだ印象は「何が明らかにされなかったという部分に、重要な意味が示唆されている」です。
つまり財務省近畿財務局や国交省大阪航空局に都合の悪い部分は、廃棄されています。政権内部からの働きかけの有無も、これだけ騒がれる問題ですから、もしなかったならば、そう記録しておけばいいのに、それもありません。重要な部分を隠した結果、何が起きたかを容易に想像できる報告書です。
対立しがちな両紙とも省庁を批判
朝日新聞の社説は「首相は再調査を命じよ」との見出しです。「値引きの根拠と経緯を再調査せよ」、「壁になったのは財務省や国交省が関連文書の破棄」、「学園理事長が神風が吹いたというほど、(決定は)特例づくしだった」と指摘しています。
読売新聞の社説は「不透明な値引きに疑念が募る」という見出しです。「適正な手続きで処分したという政府の説明を否定した検査院の指摘は重い」、「国交省のゴミ撤去費用の推計は、専門業者を通さず、直接、算定するという異例の対応だった」と、明解です。
両紙に違いがあるとすれば、安倍首相夫妻の部分でしょうか。朝日は「小学校の名誉校長(予定)を首相の妻昭恵氏が務めていたことが、土地売却交渉の背景にあるのではないか」と、迫っています。一方、読売は「私(首相)や妻は払い下げに一切関与していないと、強調している」と、夫妻の弁明を強調しています。
こうした違いはあっても、国政を左右する重要問題では、政権批判と政権擁護で分かれる両紙が似通った主張をすることは、そう多くはありません。
麻生財務相は苦しいですね。「適正な手続き、価格なら問題ない」と、過去に発言しています。それを立証する資料、文書がないというのが検査院の結論です。財務相はどんな資料、文書を使って「適正な手続き、価格」だったかを、分かりやすく説明してくれるのでしょうか。
担当者の処分で幕引きか
ここから先は私の想像です。内閣から独立した機関とはいえ、政府の身内である検査院にここまで踏み込まれてしまい、何らかの手を打って、世論の批判をかわそうと、政権は判断しているでしょう。加計学園の獣医学部認可でも、不自然な点が指摘されています。
そこで、ともかく森友問題にはケリをつけておこうという腹でしょう。財務省、国交省の担当者に対する処分は不可避になった。政権寄りのメディアも「それもやむおえない」考えていることを示唆するのが社説の意味です。
それにしても奇妙なのは、関係文書の廃棄です。メモは手書きでも、官庁の文書の作成では、パソコンを使うのが常識です。紙の文書はたとえ廃棄しても、保管場所をとらないデジタル化したデータまで消去する必要はない。文書管理の甘さというより、明るみになると都合が悪くなるから消したというのが廃棄の狙いでしょう。
財務局は「局内のシステム更新に伴い、16年以前に削除された文書は復元できない」とか、いっています。では航空局はどうかというと、「協議記録は廃棄された」というのです。紙に印字し、関係者が回覧した紙の文書の廃棄ならともかく、パソコン上のデータまで廃棄する意図が全く分かりません。
さらに、学校用地の地中からでてきた大量のゴミというのは、何なのでしょうか。地下3㍍とか、9㍍とかの話がでています。長くゴミ捨て場にでもなっていた用地を覆土したのでしょうか。大規模な廃棄物処分場だったかもしれません。検査院が記録を調べれば、確認できたはずです。検査院はそこに触れていません。
大量のゴミの山が地中に埋まっていることを、担当省庁が知らなかったはずはありません。「そんな土地は将来にわたり、買い手がつかない。森友学園という買い手が現れたので、格安で売ることにした」とでも、正直に説明しておけば、分からないでもない話ではあります。
本来、国会で延々とやる大事ではないはずです。北朝鮮やデフレという国難と比べれば、小事です。首相も「私たちは売却交渉に関与していない。関与していたら議員を辞める」なんて、声を張り上げるから、小事がどんどん大事になりました。担当官庁も書類廃棄などという子供じみた行為に走るから大事に拡大したのです。
編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2017年11月23日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。