【映画評】火花

渡 まち子

若手お笑い芸人の徳永は、中学時代からの友人と組んで“スパークス”としてデビューするが、まったく芽が出ない。営業先の熱海で、“あほんだら”というコンビを組む、4歳年上の先輩芸人・神谷と出会い、彼の常識外れの漫才に魅了される。徳永は、弟子にしてほしいと申し入れ、神谷はそれを了承し、二人の交流が始まった。拠点を大阪から東京に移し、再会した後も、毎日のように芸の議論を交わし才能を磨き合う徳永と神谷は、仕事はほとんどなくても充実した日々を送っていた。だが、いつしか二人の間に小さな意識の差が生まれ始める…。

お笑いコンビ、ピースの又吉直樹の芥川賞受賞作を映画化した青春ドラマ「火花」。漫才の世界で夢を追い続ける徳永と、強い信念を持つ先輩芸人・神谷の二人が、もがきながら歩み続ける日々を描く。お笑い芸人の現実を描いた作品には「ボクたちの交換日記」があるが、本作は相方とのぶつかり合いではなく、まったくタイプの違う芸人2人の、付かず離れずの不思議な関係性を描くのが面白い。笑いの世界を良く知る板尾創路が監督を務めるが、彼の過去作品が極めて個性的で、見る人を選ぶ作風だったため、鑑賞前は不安があったが、蓋を開けてみると、驚くほど誠実でオーソドックスな青春ストーリーに仕上がっていた。

何しろ、菅田将暉と桐谷健太の二人が、これ以上ないくらいハマリ役である。特に、超がつく売れっ子の菅田将暉は、さまざまな役柄を演じる多忙な俳優だが、演技はいつもハイレベルで、パフォーマンスが落ちないのがすごい。日常のすべてがボケとツッコミという芸人たちの会話や、ネタを探し、笑いを追求するストイックな姿勢、どんなに努力しても成功がすりぬける厳しい現実など、そこにはリアルすぎる葛藤や挫折がある、クライマックスに用意されているステージは、スパークスによる“逆のことを言う”漫才だ。この名シーンには、誰もが笑いながら泣いてしまうはず。漫才界から多くの人材が参加し、大御所のビートたけし(主題歌の作詞・作曲)まで動員した本作は、お笑いの世界に生きるすべての人々に向けた、ほろ苦くも切ない応援歌なのである。
【65点】
(原題「火花」)
(日本/板尾創路監督/菅田将暉、桐谷健太、木村文乃、他)
(ほろ苦度:★★★★☆)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2017年11月24日の記事を転載させていただきました(アイキャッチ画像は公式ツイッターから)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。