ドイツで9月24日、連邦議会(下院)選挙が実施されてから早2カ月が経過したが、新政権は依然発足していない。欧州連合(EU)の盟主ドイツの政治的安定を願う他のEU加盟国もメルケル首相主導の新政権の樹立を首を長くして待っているところだ。
メルケル首相が率いる「キリスト民主・社会同盟」(CDU/CSU)と自由民主党(FDP)と、「同盟90/緑の党」とのジャマイカ連立交渉は4週間以上続いたが、FDPが19日、交渉離脱を決定したことで挫折。それを受け、フランク=ヴァルター・シュタインマイヤー大統領が関係政党の指導者と個別面談し、連立交渉に積極的に介入してきた。ドイツでは異例の大統領介入の連立交渉の行方を占ってみた。
シュタインマイヤー大統領のポジションは明確だ。新たな選挙の回避だ。そのために、CDU/CSUと社会民主党(SPD)の大連立政権の再現を支持している。前外相の大統領の政治手腕は定評があるだけに、その行方が注目されるわけだ。
A・大統領が大連立政権に拘る根拠について。
①大統領はSPD所属であり、SPD党への影響力は依然、大きい。
②総選挙をやり直したとしても、SPDの支持率は増加する見通しはなく、むしろ減少するという世論調査結果が出ている。
③連立交渉の混乱は極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)の躍進を助ける危険性が出てくること。
ちなみに、9月24日の連邦議会選の結果によると、CDU/CSUとSPDの大連立政権の場合、議会定数709議席中、399議席を獲得し、数字的には安定政権の発足が可能だ。
B・シュルツ社民党党首は9月の総選挙直後、「社民党は野党になる。メルケル政権に参加する意思はない」と早々と宣言した。
同党首の根拠は何か。
①9月の総選挙でCDU/CSUは前回選挙比(2013年)で約8.6%、社民党も約5.2%それぞれ得票率を失った。大連立政権で約13.8%の得票率が失ったという事実は国民が大連立にNOを突き付けたことを意味する。
②メルケル連立政権のジュニア政党の立場はマイナスが多い。得点はメルケル首相に行き、失点はSPDに回ってくる。SPDの党独自の政策、社会の公平と格差の是正などの政策が実施できない。
C・シュタインマイヤー大統領とシュルツ党首の23日午後の会談後の行方について。
大統領は当然、SPDの置かれた立場を強調し、「政権の空白期間が長いのはドイツばかりか、欧州全体にマイナスだ。国家の安定という立場で考え直してほしい」と説得したはずだ。
それを受け、社民党幹部たちは会合を開いた。12初めには党大会も控えていることから、社民党は野党に下野するか、それともメルケル連立政権に再び入るかの決断が迫られている。
シュルツ党首の社民党内での政治的基盤は弱い。ブリュッセルの欧州議会で5年間議長職を勤めたが、ベルリンの政界には疎い。そのうえ、党首に抜擢された後の党の選挙結果は悲惨だ。3州議会選(ザールランド州、シュレスヴィヒ・ホルシュタイン州、そしてドイツ最大州ノルトライン=ヴェストファーレン州)でことごとく敗北を喫し、本番の連邦議会選では社民党歴史上、最悪の得票率(20.5%)に終わったばかりだ。総選挙後の10月15日に実施されたニーダーザクセン州議会選で初勝利を挙げたものの、シュルツ党首を筆頭候補者に担ぎ上げても選挙に勝てないのではないか、といった不安の声がある。
D・新たに選挙を実施しない場合のシナリオは。
①メルケル首相はCDU/CSUの少数政権を樹立し、SPDは政権に参加しないが、それを受け入れる。
②CDU/CSUと大連立政権を再発足する。
③CDU/CSU、SPDに「同盟90/緑の党」の3党連立政権を発足する。
各政党のカラー(黒・赤・緑)から「ケニア連立政権」と呼ばれる。
SPD内には大連立政権のシナリオを早々と拒否したシュルツ党首への批判の声が高まっている。ヴォルフガング・ティールゼー氏やゲシーネ・シュヴァン氏らは「創造的な解決策」としてケニア連立政権を支持しているSPD幹部だ。
3つのシナリオでは目下、②が最も現実的な選択だろう。その場合、大連立を拒否してきたシュルツ党首の処遇問題が出てくる。同党首が辞任した場合、ガブリエル外相が党首に復帰することが考えられる。ケニア連立政権はあくまでも暫定的、一時的な選択肢だ。
編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年11月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。