【映画評】ゴッホ 最期の手紙

19世紀末のフランス。ある日、郵便配達人ジョゼフ・ルーランの息子アルマンは、父からの願いで1通の手紙をパリに届けることになる。それは父の友人で自殺した画家フィンセント・ファン・ゴッホが、彼の弟テオに書いた最後の手紙だった。テオの消息をたどったアルマンは、テオの死を知るが、ゴッホを知る人々にさまざまな話を聞くうちに、ゴッホの死因が本当に自殺だったのか、疑問を抱き始める…。

印象派の巨匠として知られるフィンセント・ファン・ゴッホの死の謎に迫る異色のアート・ミステリー「ゴッホ 最期の手紙」。全編、ゴッホ・タッチの動く油絵で構成された長編アニメーションだ。天才、あるいは狂人と呼ばれるゴッホの人生は、ほぼ史実に忠実に描かれているので、ストーリーそのものに驚きはない。ただ自殺か他殺か、あるいは…と多くの謎が残るゴッホの死を、実際に残るゴッホの最後の手紙によって、解釈し直したのが興味深い。

物語は96分という長さが長尺に思えるほど、テンポが悪いのだが、それを払拭するのは、ゴッホの油絵が動くという斬新な映像だ。世界中から集められた125名の絵描きの手による油彩画、総枚数62,450枚が、スクリーンで動いていく様は圧巻だ。ゴッホが暮らした場所や愛した風景、描いた人物などが、ゴッホの絵画の中と同じビジュアルで物語に参加している。これはゴッホのファンにはたまらない喜びだろう。難点は、125名という大人数なので、どうしても画風に微妙な差異が生じている部分だろうか。映像があまりにも強烈なので、結果、肝心のストーリーが脇役になってしまったのは惜しいが、今までにない映像表現として、鮮烈な印象を残してくれた。ゴッホの死の謎は、今となっては推察するしかないが、ゴッホ自身が書き残しているように「われわれ(画家)は自分たちの絵に語らせることしかできないのだ」ということになろう。
【60点】
(原題「LOVING VINCENT」)
(英・ポーランド/ドロタ・コビエラ監督/(声)ダグラス・ブース、ロベルト・グラチーク、エレノア・トムリンソン、他)
(ユニーク度:★★★★★)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2017年11月29日の記事を転載させていただきました(アイキャッチ画像は公式Facebookページから)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。