【映画評】永遠のジャンゴ

1943年、第二次世界大戦でナチス支配下にあったフランス。ジプシー出身の天才ジャズ・ギタリスト、ジャンゴ・ラインハルトは、絶大な人気を誇っていた。一方、ナチスによるジプシー迫害が激化し、各地でジプシー狩りが起きていた。ジャンゴの才能に惚れこんだナチス官僚がドイツ公演の話を持ち込むが、ジャンゴの愛人で独軍の動向に通じたルイーズは、家族全員でのスイス逃亡を促す。スイス国境の町に身を潜めたジャンゴだが、ナチス官僚が集う晩餐会での演奏が命じられる…。

不世出の天才ジャズ・ミュージシャン、ジャンゴ・ラインハルトの壮絶な生き様を描くドラマ「永遠のジャンゴ」。ベルギー生まれのジャンゴ・ラインハルトは、ロマ音楽とスウィング・ジャズを融合させたジプシー・スウィング(マヌーシュ・スウィング)の創始者で、世界中のミュージシャンに影響を与えた偉大なギタリストだ。本作ではそんなジャンゴの超絶技巧による音楽がたっぷり楽しめるが、いわゆる音楽映画でも伝記映画でもない。これはジャンゴ・ラインハルトという天才が、ジプシーを迫害し、ジャズを堕落した音楽として禁止したナチスと、いかに戦って生き抜いたかを描く、知られざる苦悩と葛藤の物語なのだ。

ナチスのユダヤ人迫害は誰もが知る暴挙だが、その裏側で、ジプシーや同性愛者などの迫害も行っていた史実は、ユダヤ人迫害ほどは有名ではない。ジャンゴは、最初は「国と国の戦争など、自分たちには関係ない。俺たちミュージシャンは演奏するだけだ」とうそぶいている。だが仲間が殺され、自分もプロパガンダに利用されようとするなど、事の重大さを実感すると、理不尽に迫害されるジプシーの悲しみと怒りを強く感じ、政治意識とも無縁ではいられなくなるのだ。純粋に音楽だけに生きることが許されなかった困難な時代の哀しみを、ジャンゴの華やかでいながら哀愁を帯びたギターのメロディが体現している。ジプシーを軽蔑するナチス将校がジャンゴを嘲るように「音楽を知っているか?」と尋ねるが、その時のジャンゴの答えがいい。「音楽は知らない。音楽が俺を知っている」。ジャンゴ・ラインハルトが単なるギターの天才ではなく、ギターの英雄と呼ばれる理由がよく分かる。
【65点】
(原題「DJANGO」)
(フランス/エチエンヌ・コマール監督/レダ・カテブ、セシル・ドゥ・フランス、ビンバン・メルスタイン、他)
(歴史秘話度:★★★★☆)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2017年12月6日の記事を転載させていただきました(アイキャッチ画像は公式Twitterから)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。