【映画評】猫が教えてくれたこと

トルコ、イスタンブール。ヨーロッパとアジアの文化が交錯するこの古都は、猫の街として知られている。そこでは住人たちが野良猫に食料や寝床を与え、共存してきた歴史があった。カメラは、イスタンブールで人々に愛されながら、自由きままに暮らす7匹の猫たちと、猫との出会いに癒され、猫に深い愛情を注ぐ人間たちとの優しい関係を追う…。

トルコの大都市イスタンブールに暮らす野良猫と人間との幸福な関係を描くドキュメンタリー「猫が教えてくれたこと」。登場するのは、生まれも育ちも性格も異なる7匹の猫たちだ。市場の人気ものや、撫でられるのが大好きな甘えん坊、気性が荒いメス猫や、礼儀正しくグルメな紳士猫など、どの猫も個性豊かだ。アップを多用した猫たちの表情やしぐさの可愛らしさは破壊級で、猫好きなら思わずにっこりしてしまうはず。だが、米国で外国語ドキュメンタリー映画として史上第3位の大ヒットを記録したというこの作品は、単なる癒し系映画ではないのである。

猫たちを通して見えてくるのは、東西文化の要として繁栄した古都イスタンブールに生きる人々の多様性と寛容な心だ。「猫は人間を神ではないと分かっていて、人への感謝も忘れない」「動物を愛せない人は人間も愛せない」などの深い名言も飛び出す本作からは、人間と動物、自然と人工がごくナチュラルに同居し、街全体で猫を大切にしている空気が伝わってくる。地上10cmの猫目線カメラの映像は生き生きとして素晴らしく、悩みや苦しみを抱えながら懸命に生きる市井の人々の暮らしぶりも温かいまなざしですくい取っている。そこには、自分とは違う他者の存在を認め合い、互いを尊重することの大切さがしっかりと描かれているのだ。凡百の動物映画は一線を画す猫映画の名作である。
【75点】
(原題「KEDI」)
(トルコ/チェイダ・トルン監督/(出演猫)サリ、デニス、ベンギュ、ガムシズ、サイコパス、デュマン、アスラン・パーチャシ、他)
(猫愛度:★★★★★)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2017年12月7日の記事を転載させていただきました(アイキャッチ画像は公式Facebookページから)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。