欧州連合(EU)は11月27日、米国のモンサント社が開発した発がん性が問われている除草剤グリフォサートのこの先5年間、2022年までの使用延長を承認した。12月15日に現行の使用認可の有効期限が切れることになっていた。
10月にも協議が行われたが、その時は加盟国28カ国の中で賛成したのは16か国。EUで承認されるには65%の人口に相当する国の賛成が必要とされている。
そして、今回の協議で18か国が使用認可の延長に賛成したのである。特に、注目されていたのがドイツの動きであった。これまでドイツは棄権していたが、今回遂に賛成に回ったのである。
しかし、それが現在のドイツ政府を構成しているキリスト教民主同盟と社民党との間で後者が前者に憤慨する論争になったというのだ。理由は、キリスト教民主同盟のクリスチアン・シュミット農業相がこれまで棄権票を投じていたにも拘らず、今回初めて賛成に回ったからである。それを知った社民党のハーバラ・ヘンドリック環境相は直ぐに声明を発表して、午前中にシュミット農業相に社民党はこの認可延長に反対している旨を伝え、これまで通り棄権するように念を押していたのに、それが無視されるという結果になったからである。
つい最近の総選挙後の交渉で、メルケル首相が自由党とグリーン党との3党連立政権の擁立が不可能になっていた矢先の出来事であった。そこで、シュタインマイアー大統領の要請もあって、社民党が国家の安定を優先して当初否定していたキリスト教民主同盟とこの儘連立政権を続ける為の交渉が行われることになっている。その交渉が始まる前の今回の論争は両党に気まずい傷痕を残すことになった。
しかし、今回のドイツの賛成がグリフォサートの2022年までの使用延長が決まるのに決定的な要因になったという。
ドイツが最終的に賛成に回ったという背景には昨年ドイツの製薬化学企業バイエル社がグリフォサートを生んだモンサント社を買収したということも影響しているようである。
同様に、グリフォサートの使用をEUで禁止すれば、それを使用して栽培させた米国の農作物を始め、アルゼンチン、ブラジル、カナダ、オーソトラリア、ウルグアイなどからの農作物のEUへの輸出が困難になる可能性があるという恐れを招くことにもなるのである。
例えば、米国からEUに向けて農作物が昨年は82億ユーロ(1兆660億円)輸出されている。アルゼンチンから穀物、果物、野菜など310億ユーロ(4兆円)、ブラジルから40億ユーロ(5200億円)、カナダは17億6300万ユーロ(2300億円)、オーストラリア7億7300万ユーロ(1000億円)に相当する農作物が昨年EUに向けて輸出されたのである。
スペインについて見ると、2015年に米国から大豆を1100万ユーロ(14億3000万円、小麦、ヒマワリなど3000万ユーロ(39億円)が輸入している。これらはグリフォサートを使用し、遺伝子組み換え作物である。
また、グリフォサートの使用が禁止されると、スペインの場合は農業部門において作付面積の割合と比較して生産量が減り、21億2400万ユーロ(2760億円)相当の損出を被ることになり、5000人の雇用の喪失にも繋がるという報告がプライスウォーターハウスクーパースから出されている。
米国を筆頭にカナダや南米からの圧力もあってEUはグリフォサートの使用延長が正当であるという理由づけをする拠り所が必要であった。それが欧州食品安全機関(EFSA)や欧州化学物質庁(ECHA)である。
例えば、EFSAはグリフォサートが発がん性物資であるとされるには、その効力は僅かであるという結論を出している。またECHAも現在発表されている科学研究情報から判断してグリフォサートは発がん性、突然変異性、毒性のある物質と判断される程ではないという報告をしている。特に、EFSAはモンサントの研究報告を下敷きにしたものだという批判もある。
このような批判が生まれるのは、世界保健機構(WHO)がモンサントは人体にとって恐らく発がん性ある物質であるという判断を下しているのとは正反対の結論を出しているからである。
国際連合食糧農業機関(FAO)の場合は適切な量を使用するのであればグリフォサートは消費者や健康にも危険があるとは判断されないという結論を出している。
問題は個々の研究組織が化学的根拠に100%基づいているのではなく、政治的影響がその中に加味されていることである。
スペイン消費者団体(FACUA)の場合は国際ガン研究機関(IARC)による研究を基に、グリフォサートは人体に危険性があるとして、バルセロナでは2015年、マドリードでは2016年にその使用が禁止されていると述べている。
今回グリフォサートの5年間の使用延長を承認した18カ国はスペイン、ブルガリア、ドイツ、チェコ、デンマーク、エストニア、アイルランド、レトニア、リトアニア、ハンガリー、オランダ、ポーランド、ルーマニア、スロベニア、スロバキア、フィンランド、スウェーデン、英国である。反対はフランス、ベルギー、ギリシャ、クロアチア、イタリア、キプロス、ルクセンブルグ、マルタ、オーストリアの9カ国。そしてポルトガルが棄権した。
反対の陣頭に立っているフランスの場合は、グリフォサートの使用がEUで5年延長されても、フランスは2019年にガーデニングに使用の為のグリフォサートは禁止するとしている。それはグリフォサートの販売市場の20%に匹敵するだけであるが、フランス政府は一般消費者の意向をできるだけ取り入れるという姿勢を堅持しているという。
尚、グリフォサートのパテントは2000年に切れており、類似の商品を70社以上が生産していることも記憶しておく必要がある。