【映画評】オリエント急行殺人事件

渡 まち子

© 2017Twentieth Century Fox Film Corporation

ヨーロッパ各地を結ぶ豪華寝台列車オリエント急行で、アメリカ人の富豪ラチェットが刺殺される事件が起こる。偶然、この列車に乗り合わせていた世界的名探偵エルキュール・ポアロは、大雪で立ち往生し密室となった列車の、一等車両の乗客に話を聞いていくが、乗客たちには全員アリバイがあった。未亡人、家庭教師、宣教師、公爵夫人、教授、医者、セールスマン…。目的地以外共通点がないように見えた乗客たちだったが、やがて過去に起きた悲劇的な事件との関連性が浮かび上がる…。

アガサ・クリスティの名作ミステリーを豪華キャストで映画化した「オリエント急行殺人事件」。原作は1934年に初版された傑作推理小説。シドニー・ルメット監督によってオールスターキャストで映画化された1974年の映画もまた、名作ミステリーとして名高い。灰色の脳細胞を持つ名探偵ポアロが難事件に挑むストーリーは、基本的には同じだが、ケネス・ブラナー監督は、自らが演じるポアロも含めて、現代的な解釈を施している。訳ありの乗客たちを演じるのは、ほとんどが主役級の俳優だ。犯人を知っていても、結末が分かっていても、十分に楽しめるのは、彼らの演技合戦が素晴らしいからに他ならない。まるで古典芸能を見ているような豊かな気分になる。意外なキャスティングとしては、ダンサーのセルゲイ・ポルーニン。出演時間は少ないが、強烈なインパクトを残してくれた。

贅沢なオリエント急行の列車の中はもちろん豪華で見応えがあるが、今回のポアロは、大雪で立ち往生する列車の外でお茶を飲んだり、列車の屋根の上を走ったり、とにかく“外に出る”。シネスコ映像による広大な風景は、過去作にはなかった魅力だ。この世には善と悪しか存在しないというのがポアロの持論だが、この殺人事件のあまりにも悲しい真相は、ポアロに、真実が持つ別の側面を認めさせる。名探偵もまた事件によって学び、成長しているのだ。舞台で鍛え上げたケネス・ブラナーの存在感は抜群で、神経質でこだわり派、鋭い観察眼と分析力に加え、語学力や幅広い教養も併せ持つポアロを、巨大なヒゲと軽妙なセリフで演じて、ハマリ役である。どうやら次はナイルへ向かう様子。シリーズ化が楽しみになった。
【75点】
(原題「MURDER ON THE ORIENT EXPRESS」)
(アメリカ/ケネス・ブラナー監督/ケネス・ブラナー、ジョニー・デップ、ミシェル・ファイファー、他)
(豪華キャスト度:★★★★☆)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2017年12月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。