【映画評】新世紀、パリ・オペラ座

フランスが誇る芸術の殿堂、パリ・オペラ座。オペラ、バレエにおいて世界トップレベルの伝統を維持してきたが、時代の波は容赦なく押し寄せる。数百年以上守ってきた歴史の継承か、あるいは新しい時代をけん引するリーダーシップか。華々しいステージだけでなく、厳しいリハーサル、キャストの降板や職員のストライキなど、次々に起こるトラブルも含めて、カメラは、パリ・オペラ座の舞台裏に迫っていく…。

世界最高峰のオペラ、バレエ団を誇る総合芸術の殿堂パリ・オペラ座の舞台裏を追ったドキュメンタリー「新世紀、パリ・オペラ座」。オペラ座を扱った記録映画は人気で、過去にいくつも作られた。近年では、フレデリック・ワイズマン監督の「パリ・オペラ座のすべて」が記憶に新しい。

本作は、バレエよりもオペラに重点を置いている作りだが、ステージで脚光を浴びるバレエダンサーやオペラ歌手だけを追うのではなく、苦悩する経営陣や、子どもたちが参加する弦楽クラスの様子など、オペラ座の実態を幅広く描き、興味深い内容に仕上がっている。ナタリー・ポートマンの夫として知られるバンジャマン・ミルピエから元エトワールのオレリー・デュポンへの芸術監督交代の内幕があるかと思えば、新作オペラのステージに巨大な牛を登場させるユーモラスなエピソードも。とりわけ、印象的なのは、ロシアの田舎で生まれ育った若手バリトン歌手ミハイル・ティモシェンコの存在だ。新しい才能を発掘する若手育成プログラム出身の彼は、オーディションに受かり、喜び、とまどい、時に失敗しながら、映画の中で、確実に成長していく。彼の歩みに寄り添うことで、本作がより身近に感じられるはずだ。変化を受け入れる革新性と、オペラ座に求められているものは何か?と常に自問するストイックな姿勢。そんな芸術の殿堂の息吹を感じることができるドキュメンタリーだ。

【60点】
(原題「L’OPERA/THE PARIS OPERA」)
(フランス/ジャン=ステファヌ・ブロン監督/ステファン・リスナー、バンジャマン・ミルピエ、オレリー・デュポン、他)
(芸術愛度:★★★★☆)

この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2017年12月10日の記事を転載させていただきました(アイキャッチ画像は公式ウェブサイトから)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。