デジタル広告を取り扱うメディアに求められる透明性と誠実さ

ビデオリサーチのAbemaTVリリース取り下げを題材に、「視聴率」と「視聴数」の違いをはっきりさせよう。

AbemaTVは私もぜひ頑張って欲しいと思っていますが、上記の記事を読んでいただければわかるように、どのくらいの人が見ているかというのがわかりにくい状況にあります。ビデオリサーチは207万人と自社の数字を使って推計したそうですが、AbemaTV側は累計視聴数を7400万としているそうですね。

私もデジタル系の広告を多少扱うこともある人間ですが、広告を出向する際にこれらの数字は参考にするか?と言われると、正直参考にしないと思います。

有名グローバル企業がデジタル広告を減らす理由

よく「新聞やテレビなどの4大メディアの広告費は減ってきて、インターネット広告が増えている」と言われているのは皆さんご存知かと思います。これ自体はその通りなのですが、デジタル広告に積極的・先進的に取り組んできた企業はデジタル広告費を削減し始めているのです。下記の記事によりますとユニリーバとP&Gは前年比半分程度までデジタル広告費を削っています。

世界の2大広告主、P&Gとユニリーバがデジタル広告費を削減

なぜ先進的・積極的に取り組んできた世界的大企業がデジタル広告を減らしているのでしょうかそれは広告費用がどのように使われているのか、広告効果がどの程度あるのか、不透明であるからとされています

日本でも電通がトヨタの広告に関して、不正請求をしていたという事件があったのを覚えている人もいるかと思います。下記のニュースは2017年はじめに発表されたものですが、広告を出稿すると行って広告を掲載しなかったことが40件あったのです。

電通がネット広告不正で最終報告 ほぼ1千件、うち架空請求40件 役員ら17人を減俸処分

また大きなニュースだったのがYouTubeにアップロードされている差別的な内容の動画や不快な動画に大手企業の広告が表示されてしまったという件です。日本企業ではホンダがネオナチを支援する団体の動画に広告が出稿されてしまい、ブランド毀損するといった事例があります。海外企業は特に自社のブランドに敏感ですから、YouTubeからたくさんの有名企業が撤退を表明するなど大騒ぎになりました。

ホンダ、日産、ソニー 差別団体等の動画に広告が流れ炎上

Youtuberは消える⁉ Youtube広告から大手企業マクドナルド、トヨタ…撤退発表!Youtubeはどう変わる?

さらに最近ではアドフラウド(広告詐欺)が日本で横行しているという調査結果が出ています。アドフラウドというのは広告を出稿しているように見せかける、もしくは全く効果のない(場合によってはマイナス効果になる)場所に広告を出稿させることです。広告サイズを判別できないように小さくしたり、ドメインを偽装する、プログラムに酔って表示させるなど様々です。

そしてそのアドフラウドの発生数は日本が突出して高く、特に動画広告において頻発しているとされています(日本は人間以外の広告表示が多く、世界的にはアドフラウドの65%が動画広告で発生しているそうです)。

広告詐欺大国・日本、インプの81%が該当との調査結果:アドフラウドの国際的状況を示す4つのグラフ

求められるデジタルメディアの透明性

多くのデジタルメディアは広告モデルによって成り立っています。メディア運営の費用を広告掲載によって賄うというものです。これは最大手のSNSであるFacebookもそうですし、YouTubeもそうです。広告主のマイナスになるようなことをしていては、メディアとして成り立たちません。

広告主である企業はAbemaTVの累計視聴数が7400万とか、ビデオリサーチの推計で200万人強だとか、そういう情報が必要なのではありません。必要なのはどこにどのタイミングでどの位置に広告が掲載され、何人の人に見てもらえたかを知りたいわけです。その情報の透明性をP&Gやユニリーバといった先進的な企業は求めています。

まだ日本の企業の多くはデジタル広告を増やしていく段階で、デジタル広告が不透明だから減らそうという方向に進もうとする企業はほとんどいないでしょう。だからこそ、早い段階で広告主に対しては透明性を担保したメディア運営をすべきかと思います。インターネット広告のいいところは細かくリアルタイムに数字が出せるところでもあるのですから。

我々一般視聴者に対してまで数字を出す必要はないと思いますが、広告主に対しては透明性のある情報公開をすることが求められているかと思います。