【映画評】ルージュの手紙

パリ郊外で暮らす助産婦のクレールは、女手一つで息子を育て、真面目に生きてきた。そんなクレールの元に、30年前にふいに姿を消した血のつながらない母親ベアトリスから突然連絡が入る。クレールはベアトリスの失踪後に、父が自殺したことから奔放に生きるベアトリスを許すことができなかった。だが末期ガンを患い、すべてを失って戻ってきたベアトリスを、クレールは放っておくことが出来ない。仕方なく、彼女につきあうちに、今まで知らなかったや古い秘密や思いが明らかになり、性格も生き方も正反対の二人は次第に距離を縮めていく…。

対照的な母と娘が再会し絆を育むヒューマンドラマ「ルージュの手紙」。仏映画界を代表する大女優、カトリーヌ・ドヌーヴとカトリーヌ・フロが初共演する人間ドラマだが、真逆の二人が反発しながら次第に溝を埋めていくストーリーは、まるでバディ・ムービーのようだ。助産婦として堅実に生きてきたクレールは、仕事に誇りは持っているが人生を振り返るヒマもない真面目人間。一方、血のつながらない母ベアトリスは、お酒とギャンブルに目がなく、身勝手で自由奔放。対照的な二人を見た目で表すのが、クレールの“ダザい”コートと、ベアトリスの“肉食系”ヒョウ柄の服だ。水と油のような二人が、触れ合うことで、互いの中に自分にない資質を見出していく様が、繊細に描かれる。

猫のように自由な母親が、堅物の娘に人生の喜びを教えるという展開は、よくある母娘もののパターンではあるが、いかにもフランス映画らしいのは、個を大切にしていることだ。ベアトリスもクレールも、互いに歩み寄ることで、本来自分の中にあった“才能”に気付く。ベアトリスは他者への思いやりを、クレールは自分を解放することを学び、自分の中に小さな変化を起こしていくのだ。めんどくさいが、やっぱり愛おしい関係。それが母と娘なのである。二人の偉大なカトリーヌの影に隠れがちだが、クレールを愛するシモンを演じるオリヴィエ・グルメがいい味を出している。男も女も一人では生きていけず、誰かと関わり合って存在しているのだと教えてくれる作品だった。、
【65点】
(原題「SAGE FEMME」)
(フランス/マルタン・プロヴォ監督/カトリーヌ・ドヌーヴ、カトリーヌ・フロ、オリヴィエ・グルメ、他)
(女性映画度:★★★★★)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2017年12月11日の記事を転載させていただきました(アイキャッチ画像は公式ウェブサイトから)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。