「音楽が売れない…」YouTubeは敵か?味方か?

こんにちは!肥後庵の黒坂です。

2018年1月3日に初地上波となる「君の名は」。知らない人はいないかもしれませんが、この作品の興行収入は250億でアニメでは千と千尋の神隠しについで2位、日本人の10人に1人が見たと言われるメガヒットになりました。作品の評価はさておき、個人的に気になったのが音楽!作中に流れる音楽はどれも雰囲気にとてもマッチしていて、中でも「前前前夜」という曲はとてもいいなあ、と思います。

で、さぞやものすごい売れ行きになったと思っていました。「曲が売れない」というこの時代においても、これだけのメガヒットアニメ映画なのですからきっと凄まじい売上なのだと。Wikipediaから抜粋したデータによると、

オリコン週間アルバム (8月22日-28日集計、9月5日付) 5万7878

とあります。あれ…?なんか思ったより少ないような…。私が子供の頃、ストリートファイター2 ムービーという映画を見に行ってそこで流れた「愛しさと切なさと心強さと」は202万枚売れています。「音楽が売れない…」と言われる時代、この数字は本当に問題なのかもしれません。

「聞かない」ではなく「払わない」ことが問題

2014年11月12日(水)に全国20~30代の男女100名を対象に行われた音楽に関するネットの意識調査によると、「10年前と比べてお金を出して聞きたくない」と答えた人は92%にのぼるとあります。

この調査の行われた10年前といえば2004年、YouTubeが世に出たのは2005年ですからその頃は音楽を今ほど手軽に聞くことができるプラットフォームがありませんでした。音楽を聴きたいならお金を払うしかない、そんな環境と曲名を検索して3秒後に再生が始まる現在とではあまりにも環境が異なります。お金は誰にとっても大事なものですから、ネットで聴けるものをあえてお金を出して物理的保管をしなければいけないCDで聴く理由は多くありません。

一部の意識調査では音楽自体を聞かなくなった、というものもあるようですが私はそれ以上に「音楽はお金を払う対象ではない」と考える人が増えたことが問題だと思っています。YouTubeで聴くとクリック1つで即再生、CDを買うとお金を支払う上に届くまで時間がかかりますし、保管の手間が発生します。無料の方が使い勝手がいい、という状況では有料音楽に勝ち目がありません(ダウンロード販売も無料との差別化が出来ていませんから同じことです)。

YouTubeで再生される意義

さて、冒頭に述べた君の名はで流れる「前前前夜」ですが、YouTubeで曲名を検索してふと再生回数を見た私は驚愕しました。この記事を書いている12月4日時点で1億6300万回です。信じられない再生回数ではないですか?日本人の人口よりも多い再生回数で、日本一のYouTuberヒカキンさんの最高再生回数である「YouTubeテーマソング/ヒカキン&セイキン」で6000万回ですから、その3倍というのはとてつもない再生回数です。このとてつもない再生回数の理由には「外国人リスナー」の存在があります。

コメント欄を見てみると、多くが英語、日本語もあるにはありますがざっと見て半分近くが英語で書かれています。この曲は日本だけではなく、外国人の心をも掴んでしまったわけです。「いい曲がなくなった」と言われますが、そんなことはないと思います。曲が売れない理由はいい音楽がなくなったのではなく、いい曲が売れる理由がなくなったのではないでしょうか?

これだけ凄まじいYouTube再生回数を叩き出したことで、名前が売れたことでしょう。ですが見る限りはCDの売上に直結しているわけではなさそうです。かたや、握手券つきのAKB CDはバカ売れ。これは音楽の品質ではなく、マーケティングの問題でしょう。いい曲を作り、YouTubeで1億6300万回も再生されていても、CDは5万枚の売上なのです。彼らはこの先、新曲を出す度に注目されるでしょうから、このヒットに意義がないわけではありませんが、再生回数に応じたものか?と問われるとなんとも微妙な気がしてしまうのです。

YouTubeはプラットフォーム、マーケティングはご自身で

何気なくYouTubeを見ていると、ものすごくいい歌を見つけることがあります。「うたってみた」「弾いてみた」は原曲の良さを引き出し、素晴らしいアレンジになっているものもあるくらいです。でもこれはYouTubeにアップしているから存在を知ってもらえるわけで、彼らがCDを出したりダウンロード販売をしていたとしても私は買うことはなかったでしょう。そう、YouTubeは音楽の敵ではないと思います。もとい自分たちの音楽を発表するプラットフォームであり、そこからいかに利益を生み出すのか?というのは自身のマーケティングにかかっていると考えます。歌い手、と呼ばれるYouTubeやニコニコ動画をきっかけに自分の歌をたくさんのリスナーに聴いてもらったことをきっかけに、ニコニコ超会議というイベントに呼ばれたり、YouTube広告やCD販売で収益を出している人もいます。それがどれだけの収入なのか?はさておき、収益化には成功しているわけです。

YouTubeはプラットフォーム、自分の歌で収益化するマーケティングは自分自身で。というのが現在の音楽のあり方なんじゃないかと思っています。

ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。