アラバマ州補欠選の勝利で、民主党上院が税制改革法案にフィリバスター?

安田 佐和子

税制改革に、暗雲が立ち込めてきました。

アラバマ州上院議員補欠選挙が12日に開票され、接戦の末に民主党のダグ・ジョーンズ候補が共和党のロイ・ムーア候補に勝利しました。地元メディアによれば開票率100%で、ジョーンズ候補の得票率は67万1,151票(50%)、ムーア候補は65万436票(48%)とその差は2万715票。選挙直前のFOXによる世論調査では50%vs40%でジョーンズ候補が10%の差をつけていたところ、蓋を開けてみればさすが共和党を基盤とするアラバマ州とあって、同候補の辛勝に終わりました。書き込み投票は2%で2万2,819票でしたから、仮にこの票がムーア候補に流れていれば逆の展開を迎えていたことになります。

出口調査結果は、以下の通り(全てワシントン・ポスト紙より)。女性票、非白人票、高学歴、都市部の票が命運を分けました。

(作成:My Big Apple NY)

トランプ大統領は結果を受け、ジョーンズ候補にツイッターで祝辞を送ったものの「書き込み投票が結果を大きく左右したが、勝ちは勝ちだ」と皮肉を挟むことを忘れません。

自身が支持したムーア候補の敗北はトランプ大統領にとって、そして共和党議会にとって大打撃です。なぜなら、今回の結果により、民主党がフィリバスター(議事妨害)に訴えるリスクが浮上しているのですよ。

税制改革は下院で11月16日、上院で12月2日に可決しているため、両院協議会がこれらを一本化する作業を行います。一本化された案を両院協議会報告書と呼びますが、上下院それぞれが可決しなければなりません。両院協議会報告書には特徴があり、1)上下院は修正を加えられない、2)上院では常にフィリバスターが可能――の2つ。特に後者が重要で、これまで財政調整法のルールに基づき介入できなかった民主党議員が上院でフィリバスターを仕掛け、税制改革法案の年内可決を阻止することが制度上、可能になります。

思い出して下さい。こちらでご説明した通り、アラバマ州上院議員補欠選挙結果を受け、当選した民主党のジョーンズ氏が上院議員に着任するのは年明けの見通しです。その頃には共和党の議席数は2017年までの52議席から51議席へ減少するため、造反議員を1人に抑える必要が生じます。2人出てしまえば、税制改革法案は葬り去られるというわけです。

結束力に欠ける共和党の足許をにらみ、民主党上院が年明けの採決を狙う可能性に留意しておくべきでしょう。米株高・ドル高・米金利上昇の展開を迎えていた金融市場の流れは、ダウ・ジョーンズならぬダグ・ジョーンズ氏の当選を経て、年末にかけ反転しかねません。

(カバー写真:Gage Skidmore/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2017年12月13日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。