生前、祖父が次のような話を聞かせてくれた。近衛兵として、東京の防衛をおこなっていたこと、当時は名誉とされたこと。しかし「戦争は二度と繰り返してはいけない」と多くを語ろうとはしなかった。祖父からは「戦争は過去の教訓として厳粛に受け止めるべきもの」と教わった。いま、自社の組織に“不適切な名称”をつけている会社がある。
「特攻隊」は、第二次大戦中、体当たり攻撃を行なった部隊のことを指す。実は同じ名称の組織をもつ、大手生命保険会社が存在する。かつて、このような会社は少なくなかったが、ブラック企業問題がクローズアップされてから改善していると聞いていた。私は非常に残念な気持ちになった。この人たちには先祖への敬意はないのかと。
大手生命保険会社の営業特攻隊とは
今回、話を聞くのは、ファイナンシャルプランナーの下澤純子さん。実体験をもとにステップアップした実践書『成績のいい人はモテる人』が話題になっている。アゴラでも数回にわたって取材記事を投稿したが、業界の内実に迫った記事が注目された。
「法人営業の場合、特徴的なのは、営業リストがあるから新規開拓は必要ないという巧みな採用です。通常、目標が無いことは考えにくいですが、言葉巧みにこぎつけるトークはマニュアル化されています。しかも、自由になる時間が多く、有給も比較的自由に行使できる正社員であることから、シングルマザーが多く在籍しています。」(下澤さん)
「自社商品はもちろん、仕訳や一般的な決算書の読み方などの社員研修がありません。研修も受けないまま、20~30件/日の飛込みをやらされます。どんどんアポをとってこいと。実は、リストがあるだけで、現実はそのリスト上の会社への飛込み営業なんですね。社内では『営業特攻隊』と命名されています。」(同)
しかも激務でかなりのハードワークを強いられる。その特徴は次のとおりである。
「体質は体育会系で、イケイケ・ドンドン。飛込みの際に渡す冊子を20~30冊持ち歩くのでカバンがパンパンです。また、終日歩くのでヒールは履けません。スーツにスニーカーが標準です。スーツにスニーカーの人がいたら保険営業かも知れません。また、リストと言っても、商店やマンションの一室のようなところがほとんどです。」(下澤さん)
まれに、飛込み先で「長年退職金の積み立てをしていたものが、全て掛け捨てだった」ことが判明することがある。担当者はとっくに辞めている。また、片っ端から飛込むので危険な会社であることも少なくないようである。
社内の実態は次のようなものだった
求める人物像や採用要件が不明瞭なので、採用はいつも場当たり的。上司は、営業の上司になるために数合わせで採用されているので、知識や実績が乏しいことが多い。
「営業適性が欠落している人が多いので期待はできません。ひどい上司だと、営業活動の帰りに、たばこのポイ捨てや下品な行為で注意され会社にクレームがはいることもあります。そのような上司の口ぐせが『営業に恵まれてさえいればオレだって』というもの。自分のことを棚にあげて~という人が多いようです。」(下澤さん)
「担当地区があるのに、どこの地区で営業しても構わなかったり、数字さえだせば営業は誰でもいいという会社は大変ですね。営業同士、当然、取った取られたの世界になり、足の引っ張り合い、もはや人格が変わってしまっています。」(同)
また、保険会社には、完全フルコミッションと、基本給のある会社が存在する。そして税理士と提携する制度がある生命保険会社もある。その内容を紹介しよう。
「この制度、税理士からの紹介での契約は、3年分のコミッションが一時金で税理士にはいります。営業へのコミッションは3年後から分割で入ります。表面上、白板上の数字のみ、その契約の数字が計上されます。実は、営業側にメリットがないのです。3年後の意味は?営業が辞める前提だから3年後なのかなと思ってしまいますよね。」(下澤さん)
「問題なのは、営業が、表面上、白板上だけの数字がほしいと思っていることです。会社都合だと気付いていないこと。洗脳されて営業は利用されているだけです。」(同)
本記事は、特定の生命保険会社を批判することが目的ではない。よって、現状では社名は伏せている。あくまでも、一般読者に対して保険業界の実態を知らしめることで、啓蒙をはかることが目的であることを申し上げておきたい。
尾藤克之
コラムニスト